|
精神科医の立場から
秋田市医師会精神科医の会 副会長 橋 本 誠 氏
岡田先生のお話を、皆さん、特に女性の方たちが、目をきらきらさせて聞き入っていらっしゃいました。中に何人かうたた寝しておいでの方もお見受けしました。今日の集いの副題、「若々しく、楽しく生きるには」、眠りがきわめて大事ですしとても役に立ちます。ですからどうぞそのままお休みいただいて、残りの方は、お耳と目をお貸しください。
さて、よく知られるようになったうつ病ですが、その中身はまだ充分知られていません。そこで今日は、うつ病とはどういう病気なのか、うつ病を患うことにどのような意味があるのか、うつ病という病気が私たちにどんなことを教えてくれるのかを考え、加齢にともないうつ病が、どのような形をとるのかをお話したいと思います。
1.うつ病とは?
・うつ病は脳の病気です。
・うつ病は「特殊な病」ではありません(他の病気_心臓病や肝臓病と同じです)。
・脳がオーバーヒート(働きすぎて消耗)して、システムダウンし(動けなくなっ)た状態です。
・齢を重ねるにしたがい、脳の瞬発力やスタミナは衰えます(総合的な判断力は向上します)。
ですから、無理をするとオーバーヒートしやすくなります。
ある典型的なうつ病の紹介
70歳女性
生活歴)
24歳で左官職人と結婚、3人の子供を授かる。子育てをしながら夫の仕事を手伝い、病知
らず、風邪ひとつひかず、こまねずみのように働く。
夫は会社を興し、従業員を雇い実績を上げるも、本人58歳の時急逝したため、本人が社長
を継いだ。本人65歳の時、息子が社長となり会長職になったが、地域の未亡人会会長、家事、
孫の世話などで相変わらず働く。
そのころから風邪をひきやすくなった
【これを、からだの注意(黄)信号と捉え生活を見直していたら…】。しかし働く。
既往歴) 67歳 帯状庖疹(免疫機能低下)
68歳 胃潰瘍(心身症)
【これらを、からだの警告(赤)信号と気づき生活を変えていたら…】。
治ればまた働く。
病 歴)
70歳春、疲れが取れなくなり、気持ちが沈むようになった。寝ても夜中にぱっと目覚め
あと眠れない。食欲がなくなり、何を食べても味気なくなった。体がだるく胸苦しくなるため、
かかりつけ医を受診し諸検査を受けたが、異常所見なかった。
落ち着かずイライラして身の置き所がない。好きな編み物も手がけたくなくなった。かかり
つけ医から精神科を紹介され、(老年)うつ病の診断を受け、入院治療の上改善した。
その後は、会社業務から身を引き、未亡人会会長も辞し、家事もほどほどに、いきいきと
生活している。
ここで、うつ病の診断基準(国際疾病分類)を紹介します。
@ 抑うつ気分
A 興味と喜びの喪失
B 活力の減退による易疲労感の増大・活動性の減少
のうち2つ以上があること。
a.集中力と注意力の減退
b.自己評価と自信の低下
c.罪責感と無価値感
d.将来に対する希望のない悲観的な見方(認知障害)
e.自傷あるいは自殺の観念や行為
f. 睡眠障害
g.食欲不振
これらの症状が2週間以上続く
日常生活では、
f.睡眠障害−早朝覚醒「早いうちにぱっと目がさめてしまい、あと眠れない」
g.食欲不振−空腹感がない「好物も食べたくなくなる」、味覚障害「味気ない」「砂を噛むよう」
がそろったら、うつ病を疑ってください。
これに、
A 興味と喜びの喪失「好きなことがやりたくなくなった」が重なっていたなら、うつ病の可能性が
多分に考えられます。
B は、動けなくなるということです。黄信号にも赤信号にも応じず働き続けるので、からだがつ
いに、強制的に動けなくすることによって静養させると考えることができます。これがうつ病の
役割です。からだが脳を守っているということもできます。
次に、うつ病で問題となることをあげます。
@ 自殺の危険性は、一般人口の40倍に上ります。
A ありふれた病気です。
B きわめて苦痛な病気です。
C うつ病を合併することで「身体病」の回復が遅れます。
Aについて、うつ病の頻度を述べます。
一般の人のうち、3%がうつ病にかかっていると、WHOが発表しています。ですから、今日
この会場に300人ほどの人がお集まりですので、10人近くうつ病の方がいるという割合にな
るわけです。さらに、一般の病院を受診する人のうち、外来通院患者の5〜10%、入院患者
の20〜30%がうつ病を患うと、最近の研究で報告されています。
Bについて、うつ病の苦痛度について述べます。
WHO(世界保健機関)が、生涯に罹患する病気の苦痛度を調査分析した結果によると、第
2位がうつ病であり、さらに、2025年にはおそらく1位になると予想しています。
高齢者がうつ病になった時の特徴は何でしょうか。
@ 不安焦燥感が現れやすい。「身の置き所がない」「居ても立ってもいられない」と表現され
ます。
A 体調が悪くなる。からだのあちこちが痛くなったり苦しくなったりします(からだの信号とみ
ることができますね)。
B 妄想を持ちやすい。「悪い病気にかかって治らない」「自分はセヤミコキでだめな人間だ」
「貧乏だ、お金がなく払えない」などと思い込みます。
C 認知症と間違えられやすい。頭の働きも低下しますから、認知症と思われることも多いです。
では、うつ病を患ったひとにしてはいけないことは、どのようなことでしょうか。
・病気あつかいをしない。
気の持ちようだとみなし、頑張れと励ますことは、自殺に追い込むことすらあります。
・休養・静養をさまたげる。
家の中にいてばかりでは気も沈むからと、好意から外に誘い出す人が多いのですが、回復の
妨げになりかねません。
・性格について、また、周りの環境因について考えさせる。
自分を責めがちになっていますから、ますます落ち込みます。
・重大な決断をさせる。
悲観的になっていますので、判断を誤ります。
・早く仕事に復帰させる。
うつ病のぶり返し、再発につながりやすいです。
最後に、「加齢とうつ病」から学ぶ、アンチエイジングって何だべ。
@ 若ぶることではなく、自分の体と相談して、年相応に(体に添って)生活すること。
参考に、作家橋本治の名言です。「からだはあたまよりもあたまがいい」
A 「〜ねばならない」「〜すべき」よりも、「〜したい」「〜したくない」を大事にしましょう。
B 生きる心地よさを味わい生活を楽しむこと。これが、若々しさにもつながりましょう。
最後に、良寛が、震災にあった友人に送った手紙の有名な一節をご紹介して終りといたします。
− 災害に逢時節には、災害に逢がよく候、死ぬ時節には、死ぬがよろしく候、
是はこれ災難をのがるる妙法にて候 −
|