第30回医療を考える集い   

 

「 認知症を考える 」
-  認知症? なんとせばいんだべ? -
ポスター(PDF版)
      
平成20年1月12日(土)午後1時30分〜午後4時30分

秋田ビューホテル・4階
入場無料


 「最近、もの忘れが多くなってきた。」と感じている方、「家族が認知症ではないか心配だ。」と悩んでいる方はいませんか。「もの忘れ」は年のせいで誰にでも起こりえますが、『認知症』は単なるもの忘れではなく、脳や身体の病気が原因で記憶や判断力などに障害が起こり、普通の社会生活を送ることが出来なくなった状態です。
 認知症の高齢者は、2005年に約189万人、85歳以上では4人に1人といわれ、2020年には292万人に達すると予測されています。現在でも、高齢者世帯7世帯に1人の割合で認知症のお年寄りがおり、認知症は避けては通れない身近な問題です。認知症は早期発見・早期治療が大切で、中には治る認知症もあり、症状を軽くしたり、進行を遅らせることが出来ることもあります。
 今回の「医療を考える集い」では、『認知症』を良く理解していただくとともに、「認知症にならないようにするには?」「早期発見するには?」「もし、なってしまったら?」「進行を遅らせるには?」いったいどうしたら良いのかを、ぜひ皆様方と一緒に考えてみたいと思い企画いたしました。認知症のご家族をお持ちで悩んでいる方は勿論、まだまだ大丈夫と思っている方も、できるだけ多くのご参加をお待ちしております。

プログラム

総合司会

 加賀谷  学

あいさつ

 

秋田市医師会長

 福島 幸隆

 

祝   辞

 

秋田市長

  佐竹 敬久

秋田県医師会長

  小山田 雍 様

 

基調講演

 一般的な認知症について  
                                

              医療法人久幸会理事長・今村病院 院長     稲 庭 千弥子 氏

 

              寸 劇 コ ン ト

 
なんとへば  えなだ?

                    
手形訪問看護ステーション職員有志

 

シンポジウム

                          司会  松 田   淳 

 

シンポジスト

● 家族の立場から

   「アルツハイマー病の夫を介護して」

                  社団法人認知症の人と家族の会秋田県支部副支部長
                                  家族がつくった認知症早期発見のめやす



 
佐藤 敦子 氏


● 
ケアマネージャーの立場から

   「在宅での認知症ケアについて」

                      手形訪問看護ステーション管理者




 
伊藤 セイ子 氏

● 病院医療スタッフの立場から

  
「認知症看護の現状と課題」

                       秋田緑ケ丘病院 病棟看護師



 
辻  隆行 氏

● 医師の立場から

  
「早期発見と対応について」

                        秋田大学医学部精神科助教



 
菅原 純哉 氏

● 基調講演者

                  医療法人久幸会理事長・今村病院院長



 
稲庭 千弥子 氏

 

 質 疑 応 答

 

総合司会(加賀谷学)
 今週前半まで比較的温暖な天気で推移しておりましたが、ここ数日の間に急に寒くなってまいりました。本日も朝より雪模様で足元が悪いにもかかわらず、当会場まで足を運んでいただきまして本当にありがとうございました。秋田市医師会より深く御礼申し上げます。総合司会は秋田市医師会広報委員の加賀谷が務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 秋田市医師会で市民の皆様が健康について考えるきっかけになればと毎年開催しているのがこの医療を考える集いであります。第30回目の今回のテーマは認知症です。認知症にならないようにするには、早期発見するには、更に、もしなってしまったらどうしたらいいのか、是非この機会に皆様とここで一緒に考えてまいりたいと思います。先に認知症に詳しい専門の医師より基調講演として認知症について教えていただきます。更に認知症をテーマにした寸劇にお時間をいただいた後で、皆様からの質問で意見を伺いながら討論するシンポジウムに移りたいと思います。この集いは市民の皆様が主役であると考えております。是非気楽に、そして積極的に討論に参加していただければと思います。では初めに、秋田市医師会長福島幸隆よりあいさつがあります。



福島幸隆秋田市医師会長
 皆さんこんにちは。
 秋田市医師会の福島と申します。本日は年1回秋田市医師会主催で市民の皆様向けの講演会であります「医療を考える集い」にご参加いただきまして、誠にありがとうございました。今年のテーマは認知症です。数年前までは痴呆症と呼ばれていましたが、今は認知症と少し高級感溢れる名前に変わりましたが、実態は同じものです。人間年をとりますと、いろんな病気にかかるリスクが出てきます。がん、脳卒中、心臓病、肺炎等が死亡原因の代表的なものですが、直接死因としては認知症はその中に入っていません。しかし、介護する人の立場になってみると、がんや脳卒中に匹敵しますし、あるいはそれ以上の負担になってきます。
 私個人はまだ50代であること、親や親戚に認知症の人はいませんので、大丈夫と思っていますが、診察しているときに自分は呆けたかなと思う時が時々あります。患者さんが診察室に入ってきたら、「おはようございます、どうですか身体の調子は」と話し始めますが、例えば「今朝の4時頃ひどい雷でしたね、目を覚ましてしまいました」などといつもと違ったことを話していると、「あれ?身体の調子はどうですか」ということを聞いたかどうか忘れたりして、もう一度聞いたりすることがあります。また、私は方向音痴で知らないところを車で通過した時、もう一度逆の方向から走ってきても同じ道であることが認識できないことがあり、自分も少しその気があるのかと心配になってしまうことがあります。こんな具合で、だんだん年をとってきますと、認知症に対する不安は誰でも持っているということなのだろうと思います。
 認知症は本人が物忘れすると自覚している間はまだ大丈夫ですが、こうした自覚がなくなってくると本物の認知症です。この段階になると、かかりつけのお医者さんに一人で来られても、打つ手がなくなります。本人は既に病気の意識がないので、こちらから認知症の傾向があると言っても、理解できないしあるいはそういう医師に自尊心を傷つけられたと思ってしまうからです。これは開業医仲間から聞いた話ですが、認知症の患者さんが一人で行けるところは「床屋さんとかかりつけの開業医の2箇所のみ」だそうです。どちらも家からそう遠くない所にあり、建物もそう広くなくて迷うことなく、いつも決まったお金を持っていけばよいのはこの2つだけだそうです。私はこれを聞いてその評価をどう考えてよいのか良く分かりませんでしたが、なるほどと思いました。話が脱線しましたが、とにかく家族が認知症ではないかと疑ったら、家の人はできるだけ早くかかりつけ医か精神科のお医者さんに相談することです。一般に、家族の方はそうではないかと思いながら、そうであって欲しくない、はっきりとその認知症という病名を聞きたくないという心の葛藤があるため、遅くなりがちです。現在は早い段階ですと、薬が比較的よく効きますし、さまざまなトレーニングや頭や身体を積極的に使う趣味を継続するなどの選択肢があります。遅くなってしまうと、その選択肢の幅はなくなり限られた治療になってしまいます。これはどんな病気でも同じことですが、とにかくおかしいと思ったら早めに手を打つことだと思います。また、一方では認知症になっても安心して暮らせる町づくりも必要です。その第一歩として、同じ町内で認知症の方がいらっしゃったら積極的に声かけをして昔話に花を咲かせてください。「情けは人の為ならず」という言葉があります。人に親切にしていれば巡り巡って自分にも良い報いがあるということですが、もし万一自分が認知症になっても、その時は人に優しくされるはずです。本日の「医療を考える集い」には寸劇コントもありますので、皆様に少しでも楽しんでいただいてかつお役に立ちますことを念じまして、挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。



佐竹敬久秋田市長 (代読:秋濱哲雄秋田市保健所長)
 市保健所長の秋濱でございます。本来であれば市長がごあいさつ申しあげるところでありますが、他の公務で出席できませんので、市長から預かってまいりましたあいさつを代読いたします。
 「第30回医療を考える集い」の開催をお喜び申しあげます。また、秋田市医師会の皆様、ならびに本日ご来場の皆様には、日頃から市政全般にわたり格別のご支援・ご協力をいただき、厚く御礼申しあげます。
 秋田市医師会が一般市民を対象に開催している「医療を考える集い」は、市民の健康の保持・増進にふさわしいテーマを選び、興味をもてるよう工夫された企画となっており、多くの市民が参加し、健康を見直す有意義な機会となっております。
 さて、本市では、平成18年時点での総人口に対する65歳以上の人が占める割合が21.7%となっている「高齢社会」であります。本日のテーマである「認知症」の問題は高齢者を抱える家族だけでなく、いずれ老いを迎える誰もが関心のある問題であり、本市としましても大変興味深いテーマであります。
 認知症は、その症状ゆえに、時に周囲の理解や協力を得ることが困難となることがあります。その結果として、老老介護の夫婦や親子が家族の行く末を案じ起こる事件は後を絶たず、社会全体での対応が必要であると認識しております。
 秋田市においては、「第11次秋田市総合計画」に基づき、保健、医療、福祉のみならず、多岐にわたる施策を計画的、積極的に展開しているところであります。
 本計画においては、高齢者福祉対策として、地域包括支援センターの設置や要介護者を対象とした地域密着型サービスの提供、老人福祉施設の整備など介護サービス提供体制の充実を進めております。また、高齢者の健康維持を促進するために、介護予防に関する知識の普及や啓発に力を入れ、高齢者が自発的に健康づくりに取り組めるよう支援したり、筋力などの機能向上や栄養改善などの介護予防サービスの充実を図り、高齢者が住み慣れた地域で生きがいをもって健やかに生活することができるよう取り組んでおります。
 このように様々な施策を効果的に展開するためには、秋田市医師会をはじめとする関係者の皆様のご助言やご協力、そして市民一人ひとりが自身の間題として関心を持つことが不可欠であり、改めて皆様の一層のお力添えを頂きますようお願い申し上げます。
 おわりに、本日の「医療を考える集い」が実り多きものとなりますよう、そして、秋田市医師会の益々のご発展と本日ご来場の皆様のご健勝をご祈念申しあげ、あいさつといたします。



小山田雍秋田県医師会長

 秋田県医師会の小山田でございます。まずはあけましておめでとうございます。第30回という節目を迎えました秋田市医師会主催の「医療を考える集い」という機会を、私ども秋田県医師会は重要視しております。様々な機会を捉えまして県民の皆様と知識や考え方を共有していくという機会であります。共に考え共有していくことで信頼感が生まれ、安心・安全な質の高い医療を目指すという基本的な考えでございます。
 平成20年度には、医療全般の広い分野におきまして制度その他が変わってくる節目の年になります。医療費適正化計画、五ヵ年計画に代表されるいろいろな政策、例えば今までの老人保険制度に基づいた住民の健康診断に代わる特定健診・保健指導でありますとか、後期高齢者の新しい医療制度即ち、75歳以上の方々を主とした新しい医療制度がスタートいたします。
 そのほか国が求める新たな医療計画がございまして、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病が主体となる4つの大きな病気や医療の大きな事業であります5つの分野(災害時の医療、救急医療、子供の医療、出産を主とした周産期医療、僻地医療など医師不足による地域医療の崩壊)をどうするかというものです。
 僻地に限らず医師不足は毎日のように言われております。秋田市周辺には医療機関が集まっているとはいえ、全体で見ますと必ずしも地域的な偏り、診療科の偏りだけではない絶対的な医師の不足ということがございます。それにより勤務されている医師たちの信じられないような過重労働があり、質の高さと安全・安心の医療をこれ以上求められるのかと思うほどの状況がございます。
 本来医療は医療の提供側と受ける側の共同作業で、共通の認識と同じ土俵で成し遂げて成果を求めていくものであります。しかし良し悪しや結果に偏りがちなため、医療を提供する私どもと受けられる県民の皆様とのあいだに、苛立ちや刺々しい関係が見え隠れしますし、全国的に様々な問題が詳しく報道され拍車をかけているように感じます。
 私どもはこのようなあり方を非常に懸念しております。その意味ではこの医療を考える集いは直接県民の皆様と話し合い共有する機会であり、これからもこのような機会を計画し皆様と信頼関係を深めながら県民の医療・保健・福祉にまい進してまいりたいと思います。
 本日の認知症というテーマによってこれだけ大盛会になるということは、いかに皆様にとって身近で毎日思っているかということを如実に示している結果と思います。
 自分自身を含めて、家族や近所の皆様が病気で認知症になるということに不安や悩みがあります。自宅で過ごすのが理想ではありますが、施設が必要だと答える方がたくさんいらっしゃいます。そうしますと、先ほど申しあげた医療費適正化計画などは私どもは以前から批判的な立場を取っておるわけですが、療養病床を減らす、介護を中心としたものは廃止していく方向でございます。誰しも自宅で過ごしたいのはやまやまですが、俳徊、暴力、妄想等の症状がありますと、なかなか家で過ごすのは大変だという状況です。色々な制度を地域として考えて整備していくことが今後の大きな課題だと思っております。
 まずは本年の皆様のご発展、さらなるご健康、ご健勝を祈念し、30回という節目を迎えた秋田市医師会関係者の皆様に心から敬意と感謝を申しあげましてご祝辞とさせていただきます。おめでとうございます。

 

        

    基 調 講 演 −

             一般的な認知症について
 
                           医療法人久幸会理事長
  
稲 庭 千弥子 氏


A.認知症の現状;
  医療福祉の現場から(介護保険と医療保険と在宅サービス)
B.認知症になるということ;
  人として、家族として、地域社会の一員として
C.認知症の保健・予防;
  食生活から、最近流行のサプリメントは…
  適度な運動とは、未病を治療するまとめて面倒見る統合医療

 





−シンポジウム−

司会(松田淳)
 司会を仰せつかまつりました秋田市医師会広報委員の松田です。今回のテーマは認知症です。最近まで痴呆と言われていましたので、まだなんとなくしっくりこないと感じる方も多いと思います。私自身もその一人です。
 今回私たち広報委員会で認知症をテーマに選んだ理由というのは、介護保健のケアマネージャーを対象に調査をしてみると、要介護者の4割が認知症、またはその疑いがあるとのことで、実はすでにたくさんの患者さんがおり、その介護に大変苦労されている方が多いという現状を知り、これはみんなで考えなければならない大きな間題ではないかと考えたからです。
 先ほどお話していただきました稲庭千弥子先生の基調講演では、主に体全体の健康を維持するにはどうすればいいか、頭もその一部であるというお話、トータルで考えなければいけないという問題提起であったと思います。また先ほどの寸劇は早期発見のためのノウハウが実にうまく表現されていたと思います。
 それらをふまえて、これから4人の方にお話をしていただきます。今回は最初に個人的な体験ということで、実際に介護されたご経験を佐藤敦子様からお話していただきます。実際にどんなご苦労をされたのかというお話をしていただけると思います。その後介護の現場から今どんな状況であるのかと在宅の取り組みについて訪問看護ステーション管理者の伊藤セイ子様からお話していただきます。またその後今度は入院病棟での現状、活動の一環を病棟看護師の辻隆行様から入所施設がまだ多くない現状の中でどのような活動をされているかという報告をしていただきます。最後に認知症の全体像をつかむという意味で、医師の立場から菅原純哉先生にこれからとりわけ重要になってくると思われる早期発見についての知識と対応についてお話していただくことになっています。
 各シンポジウムの皆様からは10分ほど発表していただき、その後に質問を受け付けます。発表が終わりましたら稲庭先生にも加わっていただいて総合討論を行います。その際に皆様から色々な意見・ご質問をたくさん出していただければと思います。前置きが長くなりましたが今から発表していただきます。

 


家族の立場から

              「アルツハイマー病の夫を介護して」

                           認知症の人と家族の会秋田県支部副支部長 
佐藤 敦子 氏

 呆け老人の介護、それは大変です。100の家族に100の例があると言っても言いすぎではありません。私は夫が進行性アルツハイマー型痴呆症と診断されるまでの6年余りを、自宅で介護した体験を、お話しいたしたいと思います。夫は63歳でした。
 いつもと同じように仕事をし、車を運転し、普通に会話していました。そんなある日車ででかけたのですが、すぐに帰ってきて、「今どこにいくんだっけ。」と言いました。私はびっくりしてしまい、いっしょに車に乗って用事をすませてきました。それから、気をつけていますと、何の用事でどこに行こうとしたのか、道さえも分からなくなってしまいました。
 物忘れ、ど忘れが多くなって思い出せなくなっていきました。すぐに仕事をやめ、車の運転もさせない様に気をつけました。
 夫は趣味も多く、友達も大勢いましたし、酒、麻雀、特に釣りはプロ級でしたし、音楽は楽譜が読めましたので、クラリネットやサキュソホンを演奏したりレコードを聴くことも大好きでした。友達を、家に呼んでは宴会もしました。夫の異常に気がついてから間もなく、咋日今日のことはすっかり忘れても、50年も前の10代の頃のことをさかんに話すようになりました。それはまさに今、現在ここに起こっているかの様に鮮やかな記憶で、1日に何回も何回も語り続けるのでした。新聞を全く読まなくなり、手に取ることもなくなりましたので、面白そうな記事があると私が読んで聞かせました。また、日にちがわからなくなりましたので、日めくりの大きなカレンダーを用意して、今日は、○月○日○曜日よと言うだけで落ち着く様でした。夕方暗くなると何かに怯えたり、雨の降る日や風の強い夜それからパトカーのサイレン、救急車、消防車の音にも敏感に反応してイライラし、私に当りちらして目の前にある物を投げつけて困りました。暴力や物盗られの被害妄想にも泣かされました。
 お金がなくなった、財布をとられた、預金通帳がなくなったと言ってはその辺を探し回りました。私は、呆けるとかアルツハイマー病のことなど考えたこともなく、なぜこうなってしまったのか、どうすればよいかわからず、自分ばかりを責めノイローゼ状態でした。それから夫は「死にたい、生きていてもしょうがない。」と言いだしました。その時は、私も涙が止まらなくなり、夫と二人で泣いてしまいました。幸いにも痴呆患者を受け入れてくれる病院を紹介していただき、お世話になり手厚い介護を受け、1年5ヶ月後夫は他界しました。入院して間もなく「家族の会」のあることを知り、早速入会しました。それまで誰にも話せなかった辛い悩みを会員の皆様とは心の底から話せましたし、同じ悩みを持つ会員さん達は、本当に優しく親切にアドバイスしてくださいましたので、肩の荷がスーとおりてゆく様でした。
 看取り終わって今、私がよかったと思うことは、夫に暴力をふるわれても悪口雑言を並べられても、口答えせず接してきたことです。
 夫のそれまでのプライドを傷つけることなく母親になった様な気持ちでいました。けれども一番、悩み、苦しみ、不安を感じていたのは夫自身だったと思います。
 介護すると云うことは、報われない愛を捧げることであり、あたたかく見守ることしかできないと痛感しています。
 これからは、認知症らしい家族をかかえ、悩んでいる人のお話を聞き、少しでも力になってあげることができればと思っています。

 

ケアマネージャーの立場から

                「在宅での認知症ケアの実際」

                                 手形訪問看護ステーション管理者  
伊藤 セイ子 氏

最初に当事業所の3つの事業を紹介します。
1.訪問看護事業です。看護師6人、保健師1人、作業療法士1人で月約75人の方に訪問してい
 ます。
2.訪問介護事業はホームヘルパー14人で月に約65人の方に訪問しています。
3.居宅介護支援事業です。ケアマネジャー専任1人、看護職員との兼務が5人で約80人のケアプ
 ランを担当しています。このような中で認知症の方との出会いがあります。

 今まで出会った中から在宅での認知症ケアの実際を、ご家族の了解を得て紹介します。事例の年齢はすべて70歳以上です。

 事例1 異食行為と便秘との関連
 本来食べ物でないものを食べてしまうという症状があった対応です。
 女性で介護保険での要介護度は4、かろうじてトイレに行ったりしますが、ほとんどベッド上ですごしている方でした。診断名は慢性関節リウマチで、認知症の診断名はありませんでした。病弱の御主人と二人暮しで、毎日型のヘルパー、月2回の訪問看護を利用していました。ヘルパーが訪問しているときにトイレでぺ一パーをちぎって食べたり、便を手に取っている場面がありました。
 対応としては異食行為だけに注目したわけではなく、ケアマネジャーと兼務している看護師が状態を観察する中で排便のコントロールがついていないことに着目し、まず、便秘の改善を目指しました。ご主人、主治医に相談、報告、ヘルパーも参加して担当者会議を行い、すすめることにしました。
 それまでも下剤を内服していましたが、毎日内服すると下痢便のときもあり、内服を休むと便秘になっていました。そのため毎日入っているヘルパーに下剤を内服した日、排便があった日を記入してもらい、下剤と排便の関係をみていく中で、3日ごとの下剤内服で排便が調節でき、結果的に異食行為もなくなりました。

 事例2 動悸と不安焦燥感と薬の関連
 男性、要介護4、診断名は脳血管性認知症です。ヘルパーと訪問看護を利用していました。別の病気で入院した際に内服していた鎮静催眠薬などが退院後も処方されていました。しかし、ご本人からは動悸や身の置き所がないなどの訴えがあり、不眠や不安で大きな声を出す場面もありました。
 対応としてはケアマネジャー兼務の看護師が内服薬の影響を考え、主治医に相談しました。結果、内服薬を中止し様子をみることになりました。同時に奥さんの献身的な介護も効果がありまた。寸劇でごらんいただいた「良い対応」そのまま実践できるかたでした。私たちも多いに学ばされました。その結果、本人の物忘れは変わりませんが、とても穏やかになりました。

 事例3 外出したまま行方不明
 外出したまま自宅に戻れなくなってしまった例です。女性で要介護2、診断名は老年期認知症、ご家族はおりますが、日中は一人でした。デイサービス、ヘルパー、訪問看護などを利用していました。
 経過は平成19年1月午後、外出したまま行方不明となってしまいました。いろいろ探しましたがみつからず、捜索願いを出すため警察に出向いた時に、3キロ位離れた見ず知らずの地域の方が車にのせてつれてきてくれました。見つからなければ最悪の事態も予測されたのでつれてきていただいた時は、ほっとしました。あとで話をきいたところ、自宅前で倒れていて、ご飯を食べさせてくれ、少し休ませてから、つれてきてくれたとのことでした。命の恩人です。秋田市民はとっても親切でやさしいと本当に感謝でした。

 認知症の方の対応で最も留意していること
 ご本人を理解し、信頼関係を築くことです。そのために私たちは、まず、ご本人の生きてきた70年や80年の過程をできるだけ知ることに努めています。特にご本人の「輝いている頃」を知り、関係者で共有するようにしています。
 ご本人が話されたことを付箋に書き込み、関係者がいつでも見れるように一覧にしています。主に訪問回数が多いヘルパーさんが記録しています。認知症の方は最近の出来事は忘れても、自分が子供の頃のことや若い頃の事、人生で最も充実していたころのことはとてもよく話してくれます。

 ご本人、家族は頑張っている
 ある認知症のご本人に、一番困っている事は何ですかと問いかけたことがあります。その方は「なぜこうなのか、自分自身に腹が立つ」と話しておりました。物忘れすることをどうにも出来ず、悩んでいる姿が感じられました。「神様だって血圧があがる」と言ったのはアルツハイマーの方を介護しているご家族の言葉です。「病気なのだから怒ってはいけないと、理屈ではわかってはいても、気持ちをおさえることができない。神さまだって血圧があがると思うよ」と話されていました。次もご家族の言葉です。何回教えても忘れてしまう。「でも10回言えば1回位はわかってくれるのではないか」と思うから教えたいと話されていました。このようにご本人はじめ、家族の方たちは懸命に頑張っています。私たちは何とか支えになれればと思っています。

 在宅ケアで大切と感じていること
 1.こ本人を中心に家族、主治医、サービス関係者の連携が必要である事
 2.早期診断、早期治療です。私たちが出会う頃は病状が進行している感じをうけます。もう少し
  早い段階で出会う事ができればと思っています。
 3.地域住民の協力が必要と感じています。事例3のように家族やサービス事業所だけでは限界
  があります。地域住民の力が必要です。
 4.台本を差し上げます。

 早期発見、早期治療のためにはとにかく認知症の病気を知ってもらうことが大切です。そのためには私たちだけでなく、地域で皆さんに寸劇をやってもらい、認知症の理解をすすめてもらいたいと考えています。台本をおあげしますのでどうぞ町内会劇団をつくってもらえませんか。認知症の理解のために一緒に活動できればと願っております。

 


病院医療スタッフの立場から

              
「認知症看護の現状と課題」

                  
                            秋田緑ケ丘病院病棟看護師   
辻  隆行 氏

 老人性認知症疾患治療病棟は精神病棟であり、認知症に伴う幻覚、妄想、夜間せん妄、俳徊、弄便、異食の症状が著しく、その看護が著しく困難な認知症老人を急性期から入院させ、集中的な医療を提供する病棟をいいます。
 精神科を標榜する病院で、精神科医師・看護師・看護補助者のほか、専従する精神保健福祉士または、臨床心理技術者の1名が勤務していること、専従する作業療法士が1名以上勤務し、生活機能回復のための訓練及び指導を医師の治療計画に基づき患者1名あたり1日4時間、週5日以上行い、定期的にその評価を行うこと。構造的にも両端にデイルームなどの共有空間があり、老人が行動しやすい空間があること、生活技能訓練室や在宅療養訓練室があることなどがあげられます。
 認知症の患者さんは病識がないことも多く病院での加療を拒否しがちです。また見当識の低下からなぜ自分はここにいるのかと理解出来ず不安と恐怖心でいっぱいなのです。話をよく傾聴しその帰りたい気持ちや不安感を受け止めていくことから始めます。安心できる場所であること、あなたにとって味方であることを伝えるファーストコンタクトは大事な場面でありその後の関係を左右することもあるのです。それまで当たり前に出来ていたことが出来なくなる怯え、周囲の環境や出来事を適切に把握出来ない不安の中にいることを家族や職員は理解する必要があります。認知症の症状だけに目を奪われがちですがその人に目を向けて、その人の尊厳や個性、残された力、潜在している能力を見つけて関わることが大事なことなのです。
 老人性認知症疾患治療病棟は、多職種のスッタフが連携し合い短期の治療とケアを目的としている病棟ですが入院後の在院日数は長く、そして在宅への退院にはなかなか繋がらないケースが多いです。これは、認知症疾患が個人差はあるものの進行性の疾患であること。高齢であるがゆえに含併症を併発することが多く認知症そのものより身体的治療が優先されてしまうことがあること。家庭の受け入れ態勢に問題があることなどがあげられます。今後の課題としては、認知症理解促進のため、家族、地域住民との関わりをもてるような病棟内のイベントを多く開催することや、疾患・介護方法・患者理解についての学習会を開くなどし、今まで以上に家族との連絡を密にして認知症患者との接し方・環境づくりについても考える機会を増やしていくこと。認知症患者が家庭内においてもそのひとらしい日常生活のぺ一スがとれるように、その人らしい心身の力の発揮の場面が活かされるように、ご家族のかたと共通認識のうえで看護にあたることが、必要であると考えます。

 


医師の立場から

               
    「早期発見と対応について」                       

                          秋田大学医学部精神科助教   
菅原 純哉 氏

 認知症は早期発見が大事です。1.早期治療で「治る」認知症があるから。2.早期治療が進行を遅らせる可能性があるから。3.早期からの適切な対応や介護が、本人の不安と混乱を減じ症状を軽減することが可能だから。と言うのがその理由です。
 早期発見にも種々のレベルがあります。第一は、認知症であることにできるだけ早く気づくことです。しかしながらご家族が早期に気づくのは容易ではありません。記憶障害だけが目立つときはほとんど「歳のせい」と考えがちですし、アルツハイマー型認知症の方によく認められる「取り繕い・場合わせ」反応は、よく観察しなければ「認知症ではない」と思わせてしまいます。日常生活での支障が生じにくい暮らしをしていると、気づく機会は少なくなります。俳徊・妄想・興奮といった症状が出現して、気づいた時にはすでに進行していた、ということも多いのです。同様の理由で医師が日常の診療場面で「認知症である」と診断することも難しいのです。
 早期発見の第二のレベルは、認知症になりかけた時点で気づくこと、第三のレベルは認知症になる前に気づくことです。「加齢によるもの忘れは自覚があり体験の一部を忘れるが、認知症のもの忘れは自覚が無く体験全体を忘れる」と言われます。しかしながら、私たちは認知症の症状が出る以前にある程度「歳によるもの忘れ」を自覚しており、最初から自覚がなく体験全体を忘れることは多くはありません。また、アルツハイマー型認知症の脳におこる病理変化は症状が出現する数十年前からすでに始まっていることがわかっています。より早期に発見する手だてが必要なわけです。現在専門家がよく口にする状態診断として、「軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)」という言葉があります。これは年齢を考慮しても正常とは言えない記憶力の低下や、記憶以外のわずかな認知機能障害があるものの、日常生活では自立し活動性も保たれている状態を表したもので、数年後に認知症と診断される率が高い一方、全ての方が認知症に進む訳ではないとわかっています。どのような方が認知症に至るのかについて様々な研究成果があがりつつありますが、現時点で、私たちは誰もが認知症になる可能性を持っており、その変化は認知症と診断される以前から潜在的に始まっている、と考えることが大切です。
 それでは私たちはどのように行動すべきでしょうか。「もの忘れがひどい」と感じたときは、まず近くの病院で血液検査やMRI・CT検査を希望してください。これは治る認知症を見逃さない事につながります。次に、「異常なし」と言われても症状が進行するように感じられたら、神経内科・精神科・脳外科等の専門外来や認知症サポート医に相談をしてください。専門的な神経心理検査や画像診断等を受けることができるか、できる場所を紹介してもらえます。最後に、検査等の結果、認知症と診断されなかったとしても、認知症にならないことが保証されたわけではありません。勧めに従って定期的に受診してください。何か生活に支障が生じている場合はその内容を詳しく医師に伝えていただくことも重要です。
 受診した結果「初期の認知症」と言われてしまったとしても、ただ落胆することはありません。進行には個人差があり、長期問にわたってあまり変化がない方もおられます。苦手になっている能力、保たれている能力を見極め、それにあった生活を組み立てること、苦手な部分を補う周囲の協力によって支障の少ない暮らしを送ることができます。誰にでも起こりうる「認知症」を皆が理解し、認知症になっても困らない生活を構築することが最も大切です。



質 疑 応 答

質問A 色々お話ありがとうございました。菅原先生のお話は患者側の立場であり、その中の種々の問題についてはこれから研究していかなければいけない時期に来ていると思います。菅原先生のおっしゃった早期発見のために国や市の方で認知症の健診を義務付けることはできないのでしょうか。家族としては精神科の外来に連れて行きたくても行かれないという声がたくさんあります。義務付けられている定期健診のように認知症の健診も義務付ける方向に持って行けないのでしょうか。

司会 これは行政のお話なので菅原先生の個人的なご意見を伺うということにしかならないとは思いますが、菅原先生はどう思われますか。

菅原 早い時期からの健診は大事なことだと思います。一部の自治体ではすでに積極的に物忘れ健診というものをやっているところもございます。それが広がっていけばと考えています。

司会 この場に秋濱先生もおいでですので、是非行政に反映させていただければと思います。

総合司会 今回の第30回医療を考える集いは、認知症について市民の皆様と一緒に考えるきっかけになればと思い企画いたしました。いかがでしたでしょうか。本日の会が今後皆様の健康を維持する上での一つのきっかけになればと考えています。本日は本当にありがとうございました。