1)脳卒中とは
脳卒中という名前は、「脳」に「卆(にわか)」に「中(あたる)」という所からきているが、これは英語でも同じでstrokeと言われている。最近はアメリカでは「ブレイン・アタック(brain
attack)」と呼び、脳卒中はアタックだから早く病院に救急搬送し、治療を行なうようになっている。それはtPA(組織プラスミノーゲン・アクティベーター)という血液溶解剤を脳梗塞の発症から3時間以内に投与すれば患者の機能予後を改善出来ることが証明され、FDAが薬品として認可し、日常医療で使われるようになったためである。
効果を発揮するためには発症から1−2時間という早い時間に治療出来る施設へ搬送しなければならないが、そのためには一般の人が脳卒中の症状を理解し、すぐに救急車に連絡し、治療出来る施設に搬送しなければならない。そこで発作ということを強調するため、ブレイン・アタックと呼び、一般の人を巻き込んだキャンペーンが繰り広げられた。秋田においても、救急体制の整備により、救急隊にコールがあってから病院に搬送するまでの時間は30分ほどと非常に良い体制にあるが、救急隊に連絡するまでの平均時問が3時間になっており、これでは連絡した段階で治療に間に合わないという現状にある。これらを一般の方に知ってもらうことが大事であり、なぜ脳という組織は早く救いの手を差し伸べないと救えないかについて説明し、脳卒中の治療には発症からの時間が大事だということを強調した。
2)脳卒中の種類
脳卒中のそれぞれの病型、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血について、どのような病気か、診断方法、現在行われている治療、発症年齢や頻度等について説明した。日本の脳卒中の特徴は、以前は脳出血の頻度が非常に高かったことである。最近は逆転して脳梗塞の頻度が高くなり60-70%を占めるようになっているが、欧米の脳卒中に比べると、全体の発症数には差はないものの、出血性脳卒中(脳出血、クモ膜下出血の頻度が高い。また、近年、高齢化が進んでおり、各病型の平均年齢が30年前に比べると10歳ほど高齢化しているのも近年の特徴である。
脳梗塞には脳血栓、脳塞栓、ラクナ梗塞がある。診断法に進歩が見られ、特に、MRIの拡散強調画像により発症1時間程度の新鮮梗塞巣の診断が可能になったこと、多数のラクナを有する症例で新鮮梗塞巣を診断出来るようになったことなどを示した。また、発症早期であれば脳の主幹動脈が閉塞していても、脳血流量がある程度保たれておれば閉塞させている血栓の溶解を行なうことで、後遺症なく治り得ることを実例で示した。
脳出血は、発症早期には再出血により悪化する可能性があることから、発症後半日程度は状態を観察する必要があることを説明した。また現在行われている手術法、開頭血腫除去術及び定位的血腫除去術について説明した。
クモ膜下出血は、95%以上が脳動脈瘤の破裂によって引き起される。脳卒中の中で唯一女性の頻度が高い疾患で、特に、60歳を超えると男性は発症数が低下するのに対して女性は更に増加し、ピークは70歳代の後半にある。自然経過は非常に重篤であり、手術を施行しなければ発症10年目に良好な状態で生存できるのは18%と非常に少なく、3/4の患者さんは死亡する。外科治療が行なわれている現在でも、クモ膜下出血を発症すると30%は死亡し、15%は後遺症を残す。
3)脳卒中の前触れ、危険因子
脳卒中では大発作を来す前に前ぶれの症状を来すことがある。それらには、急に箸を上手く使えなくなる、箸を落としてしまう、片側の上下肢がしびれる、ロレツが回らない、言葉がでなくなる、一方の目が見えなくなる、視野が欠ける、ふらついてバランスがとれない、物が二重に見える、突然の頭痛等があり、これらが一時的の場合は一過性脳虚血発作であり、軽度の場合には脳慶塞や脳出血の症状のこともある。これらの症状があれば専門医を受診が必要である。
脳卒中の危険因子には、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、心臓病、不整脈、高尿酸血症、喫煙、多量の飲酒、遺伝等が挙げられる。この中で、最初の4つは最も重大なもので死のカルテットと呼ばれている。特に、危険因子が複数ある時には、危険度が相乗的に高くなるので、厳重なコントロールが必要となる。
4)脳卒中の疫学
現在、脳卒中は死因では全国で第3位、秋田県では第2位を占めており、寝たきりや要介護の原因の4割を占める疾患である。これからの高齢化に伴い、秋田県では患者数が2025年まで増加すると推計されている。
減塩運動、国民皆保険による高血圧治療の普及により脳卒中の発症、死亡は1960年頃をピークとし、その後1980年代まで下降を示したが、1990年代に入り発症率、死亡率共に横ばいとなっている。以前、秋田で脳卒中死亡が多かったのは、高血圧、低コレステロールが危険因子となった脳出血が高頻度が原因である。現在、秋田県の高齢化率は日本で2番であり、絶対数としては発症・死亡数共に以前と比べると半減以下に激減しているが、人口比当たりでは昨年日本一になった理由は高齢化率の高さである。
現在の脳卒患者に対する高血圧の関与を見ると、高血圧未治療の患者からの発症は全体の13%程度に過ぎず、48%は高血圧治療中、39%は境界域や正常血圧で発症している。血圧値と脳卒中発症の関係を調べた久山町のデータでは、収縮期圧140以上の高血圧患者からの発症が多いが、正常血圧とされていた140以下の収縮期圧でも、120以下に比較すると発症率が高いことが示されている。高血圧のコントロールレベルをもっと厳格に行なう必要性を示していると思われるが、これにより現在頭打ちの脳卒中発症患者数を何処まで低下させることが出来るのかはこれからの課題である。
今回、発表には秋田県脳卒中医の会および秋田県立脳血管研究センター疫学診療部鈴木一夫先生のデータを引用させて頂いた。