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<春夏秋冬>

発行日2003/09/10
すずき眼科  鈴木 明子
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らしくあれ
 
 「らしくあれ!」中学時代だったか高校時代だったか定かではありませんが、担任から事あるごとに言われた言葉です。人間らしくあれ、女らしくあれ、学生らしくあれ、等々。この言葉に関しては、色々ご意見のあるところとは思いますが、最近、「らしくある」ということに本当にほっとさせられる思いがします。
 娘がカーステレオから流れてくる福山雅治の歌うカバー曲「お嫁においで」を聞いて私に言います。「熟れた身体で駆けて来いだって。」どきっ!「ひ一ちゃん、熟れた身体って聞こえたの?」と私。「ううん、飢えた身体って言ってるんでしょ?」どきっ、どきどきっ!「飢えた身体って…?」「でも、お腹すかせて駆けて来てどうするのよね。」「ん?」犯罪の低年齢化の中、我が娘はじつに子供らしく、ほっとしました。(皆さんご存じでしょうが、正しくは「濡れた身体で駆けて来い。」です。)
 かつて「私は医者らしいのだろうか?医者らしくして患者さんに安心感を与えているのだろうか?」そんな疑問が頭の中をぐるぐる駆け巡っていたことがありました。その昔、学会後のプライベートな懇親の場に都合で少し遅れて参加した時のことです。場は完全に盛り上がっていて、何故か私の横に座った初対面の御仁は私をすっかりホステスさんと思い込んでいます。回りの人達が私を「先生。」と呼ぼうが何をしようがすっかりそう信じ切っています。そんな私ですから「医者に見えたい!」と言うよりも、患者さんに頼りなく不安な気持ちを与えてはいないか少し心配になったのです。「医者らしくある。」私にはとても難しいことのように思えました。しかしそれがひょんな事から大丈夫かもしれないと言う気持ちになれたのです。それは、あることが原因で、とても打ちのめされて、落ち込んで、最悪の精神状態のとき、予期しないところにあった鏡に偶然に映し出された私の顔、それが意外にも普通の表情だったことからでした。どんなにかズタズタのボロボロになっているだろうと思っていたその表情が何時もとなんら変わらず、「この顔付きなら私まだまだ頑張れるかも」と思えるように見えたのです。このことは私に勇気を与えました。医者を〇十年続けて来た成果でしょうか?はたまた人を〇十年やってきた成果でしょうか?このことがもたらした私への精神効果から、「これなら少しは患者さんに不安感を与えずに済むかも知れない。」と思えるようになったのです。少しほっとしました。(私としては間違えて貰えてちょっと嬉しかったのですが、私をホステスさんと間違えたその御仁はすっかり恐縮してしまい、その後5年間、東京ドームのボックスシートを我が家族の為に用意してくれるというおまけ付だったことを付記します。)
 今年は、夏だったのか、梅雨から急に秋になっちゃったんだか分からない、実に夏らしくない夏でした。これから、秋らしい秋、冬らしい冬が来るのでしょうか。らしくないことに囲まれていると気持ちがそわそわしてしまいます。
 
 春夏秋冬 <らしくあれ > から