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<春夏秋冬>

発行日2003/08/10
中通総合病院  松田  淳
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人間の老い方
 
 最近、感銘を受けた二人の人物がいます。一人はピエール・ブーレーズという現代音楽の作曲家です。御存知の方も多いことでしょう。音楽の世界では著名人ですから。全くの偶然だったのですが、何気なく滅多に見ないテレビをつけたら、これまた滅多に回さない教育テレビのチャンネルになっていて、そこに彼がちょうど登場した場面でした。彼には本当に失礼な話ですが、私は彼が生きていることすら知らずにいたので、どんな人物なんだろう?何をするんだろう?と、興味津々丸で見ていると、ユース・マーラー・オーケストラとかいう26歳以下の若い音楽家だけの楽団を指揮して、現代音楽を演奏しようとしていました。割に体格のいい白髪のおじいちゃんがでてきて、指揮台に立ったので、へえ、こんな顔してたんだ、なんてのん気に見ておりました。ところが、見ていると団員達が異常に緊張している。さらに、彼がちらっと一瞥すると、その方向にいた団員は目をむいてビクッとさらに緊張して、聴衆など全く目に入らないといった雰囲気でした。曲が始まると、その様子がもっと鮮明になり、彼は曲そのものと団員一人一人を完全に把握し、完壁に演奏するために全精力を傾けていることが私にも理解できました。すごい人なんだと、しばらくしてようやくわかってきて、この78歳の老人がどうしてこんなすごいことをやれるのか驚異でした。78歳が20代の若者達5,60名を完全に把握し、意のままに演奏させる!すごいお年寄りもいるものだと感服しました。
 二人目は明治大学名誉教授で政治経済研究所理事長の山口孝先生です。彼は私の職場の労働組合が企画した経営学習会の講師として来られた方で、私もその学習会に参加し、お話をうかがったのですが、この76歳になられた老名誉教授の頭脳の柔軟さ、分析力、洞察力にはもう、ちょっとおおげさに聞こえるかもしれませんが、自分たちがすっかり「バカ」に思えてしまうほどでした。いったい、自分たちは今までなにを知らされて働いてきたんだろう、わかったような気がしてその実なにも分かっていなかったんだ、と思い知らされて、がく然としたものです。単年度赤字とか黒字など極く簡単に作りだせるものであること、実際の資金の流れは断面だけ示されても分からないことなど、実に貴重な学習会でした。ここにもすごいお年寄りがいる!と、再び感銘を覚えたという訳です。
 この二人の、今の私より30歳前後も年齢のいった人たちがこんなにすごい知的エネルギーを持って活動している姿を見ると、なんだか胸が熱くなって、人間ってもしかしてすごい生き物なんじゃないかなどとつい興奮してしまう私は単細胞かとも思いますが、40代の自分などはまだまだ勉強しなくては、と勇気づけられ、人間の老い方として実にすばらしい実例を見せていただき、自分もあんな風に老いたいものだと目標ができて明るい気分にさせられた出釆事でした。
 
 春夏秋冬 <人間の老い方> から