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<春夏秋冬>

発行日2022/12/10
中通総合病院  大門 葉子
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エー・アイ
 
 先月の医師会からのお知らせの中に「Ai研修会の開催について」の案内がありました。普通エー・アイといえばartificial intelligence人工知能を指しますが、ここではAutopsy imaging死亡時画像診断のことで、アイを小文字で書きます。
 謎解きにAiを登場させた、海堂尊著『チームバチスタの栄光』が「このミステリーがすごい!」大賞を受賞したのは2006年のことでした。そして翌年の『死因不明社会』。これらのベストセラーによってAiという言葉が社会に普及しましたが、本当は逆で、Aiを普及させるためにこの小説を書いたのだとか。既に前年には、篠原出版から『100万人のAi入門』が本名で出版されています。Aiの意味と意義についてこれでもかっと熱く語られた医療従事者向けの本ですが、なんと無名時代のヨシタケシンスケ氏のほっこりイラストが満載です。
 2009年に実施されたAiの活用に関するアンケートでは一般病院の3割以上で、なんらかの理由で遺体を撮影したことがあるとの回答でした。死因の推定や解剖の必要性の判断、警察からの依頼などがその理由です。臨床で使用している装置(主にCT)を使っての検査はいろいろ不都合もありますが、現在ではその数はずっと増えていると思います。
 そうして撮影された画像は、死後変化や蘇生術による修飾で、生体画像と異なる所見が見られます。循環が停止することによる重力や水分移動の影響で、血管内で血清と血球成分が分離して、鏡面や凝血塊が形成されます。肺野では背側にすりガラス状の濃度上昇域が出現し、水平面ができます。蘇生術後に血管内や臓器内にガスを認めるのも頻度が高い所見です。気管支血管瘻形成や血中溶存ガスの気化、静脈ルートから入った空気が原因で、胸骨圧迫によって全身に広がるためと言われています。読影にはこの「死後画像の標準」の把握に加えて、死因に直接関与しない病変の解釈も必要です。死後CTでの死因推定は非外傷性死亡例で3割程度とされ、解剖なしでの死因特定はなかなか難しいです。
 前述の『Ai入門』でも、剖検と補完的な関係を持つこと、画像と病理との融合を目指した新しい医学情報であることが繰り返し強調され、医学の進歩や犯罪の抑止等に貢献するべきものと述べられています。
 最近では「医療事故調査制度」や「死因究明等推進計画」における調査方法の一つにもAiが挙げられています。医師会の研修もこのような流れを受けて、Aiを適切に活用する人材を育成するのが目的だそうで、プログラムを見ると講義内容は画像診断だけでなく、病理、法令・倫理、法医学、個人識別、医療事故・訴訟などと、いろいろ勉強することがあるようです…。
*海堂尊氏は作家で病理医。ヨシタケシンスケ氏は大人気の絵本作家・イラストレーターです。
 
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