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<春夏秋冬>

発行日2021/08/10
いちかわ内科クリニック  市川 喜一
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薄明
 
 開業直後から新型コロナウイルス感染流行の波に翻弄されながら、クリニックでの診療を続けている。人の出入り、感染対策の徹底、冬の除雪、、、思い返すと濃厚な1年。そして今も冷や汗かきまくり、疲労困憊の日々が続いている。少ない休日、昨年初夏までは「昼近くまでお布団と同化、ブランチを食べてまたお布団と仲良し、日が暮れたら夕食と飲酒」が定番。その結果、当然のごとく体のあちこちがおかしくなってくる。首・肩・腰、胃腸などなど、休んでいるはずなのに体調はさら悪化し、重い体のまま月曜日を迎えていた。何とかしないと、と思いつつ、ある休日にあてもなく海岸線をドライブしていると、釣りの景色が目に留まった。車を降りて近づくと、爽やかな潮風が鼻をくすぐり、目には光煌めく水面、釣り糸を垂らす人は皆穏やかな表情。幼き頃目にした「釣りキチ三平」そのままである。もしやと、すがる思いで釣り開始。結果はボウズで、長時間立ちっぱなしのため全身筋肉痛。すごく疲れたはずなのだが、なぜか心は清々しく、充電満タン元気一杯となった。世俗から離れ、釣り糸に集中することで無心になれるのが心地よく、デトックスと瞑想(今風に言うとマインドフルネス)の如し。かくして誕生した俄か釣り師、休日ごとに早朝から出動、帰宅後は妻の冷たい視線に怯えながら釣れた魚を捌き(これもSNSを見ながらのにわか仕込み)、夜はそれを肴に(魚ではありません(笑))美味しくお酒を飲む。これが週末のルーティーンとなった。冬季間は一時休眠も今年の連休頃から再開。この1~2か月、休日にはお魚さんの朝食時間である「朝マヅメ」開始直前の午前3時に起床するまでに。シーズンになると顔と腕は日焼けで浅黒くなり、釣り師らしくなっている。そんなこんなで釣りにまつわる知識を得ていくなかで「薄明(はくめい)」という言葉に目が留まった。辞書によると「地平線または水平線下の太陽からの光が、上空大気で散乱して生じる薄明りの状態」とのこと。風流な表現では「彼は誰(かはたれ)」、釣り好きの言う「朝マヅメ」の状態である。薄明には①空がほぼ完全に暗い天文薄明、②水平線・地平線が識別できる航海薄明、そして③灯火がなくても屋外で活動できる市民薄明の3つに分類されている。1年を超える新型コロナウイルス感染との戦いをこれに当てはめてみる。当初世界は「真夜中の暗闇」での戦いを強いられてきた。人間の英知を集結したワクチンの開発・接種が進み、世界は今「航海薄明」となっている。ワクチン接種がさらに進めば「市民薄明」そして、きっと世界の「日の出」が来る。その時に見える風景が人生の中で一番素晴らしいものになると、心から信じたい。
 
 春夏秋冬 <薄明> から