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<春夏秋冬>

発行日2018/06/10
平野いたみのクリニック  平野 勝介
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9月の朝顔
 
  千秋公園の冬は夜が美しい。雪が降り白い世界に覆われた公園の木々は葉を落として雪明りに街の灯が入り、公園の冬の夜は明るく、世俗を寄せ付けずに静かである。めったに人を見ないので静かなのだとずっと思いこんでいた。
  春から初夏への移ろいの木の芽時、蝉の羽化の様に赤ちゃんの手の様な薄緑色の若葉が一斉に現れて光合成と言う大作業を開始する。その頃、山に出かけると山全体がざわめいている様に感じることがある。夏の深緑は時に息苦しい。
  光合成は植物が葉緑素を使って太陽光を利用して二酸化炭素と水からブドウ糖と酸素を作り出す。ブドウ糖はアミノ酸などの化合物に変換されて生物の体を構成し、また酸素は膨大な時を経て地球上の大気を形成して様々な生命を育んで来た。また、二酸化炭素を吸収することで地球上の環境を維持している。この光合成と言う大作業で何らかの音がしてもおかしくはない。それで調べてみたが、ヒトの耳で光合成の音は全く聞こえないと言うことになっている。しかし以前から自然の中に身を置くと、何となく心が洗われた様な清々しい気持ちになることをしばしば経験する。それは自然が醸し出す自然の音(自然音)が脳内をα波状態にしてリラックスさせ、ストレスから解放させると言われている。自然音とは、風の音や小鳥の鳴き声なども含まれるが、人間の聞くことが出来ない20khzを越える高周波成分を多く含んでいる様だ。また、自然音の持つリズムには「ゆらぎ」があり、少し不規則で規則的な変化を持っているらしい。この自然の中で進化した人間のバイタルサインにもこの様な「ゆらぎ」があり、自然音の中の同じリズムを感知すると、共振して安らぎを感じるのだとも言われている。
  60歳を超えた頃、急に子供返りが始まったのか、朝顔を育てたくなった。ホームセンターから5株の苗を買って来て、プランターに植えるだけである。しかしそれから始まる毎日朝夕の水やりは程無く楽しみに変わった。9月になっても朝顔は咲く。数日に1輪と次第に減っても9月の朝顔は一生懸命に花を付ける。しかしある日、頑張って咲いているのに静かなのに気が付いた。盛夏の頃とは明らかに違う。二酸化炭素の吸収や酸素の放出に何か音の気配がしてもおかしくないと思うのだが、少なくとも盛んな光合成には多くの水が必要で、急激な水の吸引は気泡を作り、これが移動する時に高周波を発するらしい。これも自然音である。水やりを続けて、1週間花を付けないと、その時、朝顔が光合成を終えたことを知るのである。地球上のすべての生命体を育み、さらに環境を維持してくれる光合成は36億年前とも言われる頃から営み続ける大作業である。その音はきっと心の中に響くのだろう。9月の朝顔がそっと教えてくれた。
 
 春夏秋冬 <9月の朝顔> から