秋田県立中央公園(雄和)の県道を進むと日本最大規模のフィールドアスレチック場に到着するが、これを過ぎて少し進むと、左の方に「若人の丘」は見えてくる。その丘から秋田空港が一望できて、離着陸する旅客機を撮影する知る人ぞ知る穴場になったらしいのだが、ここを発見するのは私の方が早かったと思う。 30歳の頃から腰は痛かった。40歳の半年前に左アキレス腱を傷めてから、腰痛は徐々に悪化したが走れるので無視していた。50歳の誕生日(日曜)の朝、ついにそれが破綻して痛みで腰が伸びなくなった。「爺になったんだ」と妻は笑ったが、その時、事の重大さには気付いていない。激痛を堪えて腰を伸展したら普通になったので、10kmほど走り、二度と腰痛が起きない様にと腹筋を100回やった。とても医者のやることではない。当然の如く翌日からさらに悪化し、神経ブロックなど色々試みたが軽快せず、ついに入院する破目になった。3週間の入院安静でかなり回復して退院したが、まだ走れる状態になく家で落ち込んでいたゴールデンウィークの晴れた日に、妻に耳を引っ張られて県立中央公園へウォーキングに出かけた。以前なら気にならない腰痛が、走ればズシーンと起きて、これが恐怖で走れない。仕方なくタオル、水分、着替えなどを入れたリュックを共に背負って歩いた。その日の日差しは初夏の様に強く、木々の新芽の薄緑色は、くすんだ茶色を背景に点在し、そこから微かな息吹が感じられて、それらが集簇して森全体がざわめいている様に見えた。少し汗ばんでキャンプ場に出た。そこから道路(県道)の向こうの丘の上に東屋が見えた。道路の下に小さなトンネルがあり、それを抜けると眼上にそれは見えた。当然登ることにした。丘と言うより山で、中腹頃から徐々に見晴らしが良くなり頂上の東屋へ着いた。右にアスレチックの塔が見え、左には秋田空港の全域が望め、しばらく眺めていると、突然に低いエンジン音が聞こえて、左を見ると、最終の着陸態勢で空港へ侵入する旅客機が、目の前を左から右にゆっくりと通過して滑走路に着陸した。以来、晴れた日曜日は県立中央公園でリハビリをし、若人の丘でコンビニ弁当を食べながら、飛行機を眺めた。夏に南風が吹くと海側から着陸するため、7月頃まで続いたが、その年の若人の丘は、ほとんど妻と2人だけだったが、翌年からカメラ持参の人達が何人も来て、航空無線を傍受する無線機を持ちこむ者まで現れた。ある日2匹の小動物が、木々の間を抜け登山道を横切り走りまわっていた。猪の子供かと思ったが、妻は子熊だと言って私を置いて、さっさと逃げてしまった。最近、熊に注意と立ち入り禁止の看板がある。登ってみると、熊も徘徊する自然の中に丘は昔の様に静かだった。あの小動物は熊だったかもしれない。
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