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<春夏秋冬>

発行日2017/07/10
秋田赤十字病院  下田 直威
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二つの講演
 
  先の4月下旬、すでに初夏の香り漂う鹿児島で、小生が所属する日本泌尿器科学会第105回総会が開催された。主要プログラムの中で連続してなされた二つの講演が非常に印象的だったので、ここに紹介したい。
  一つは京都大学名誉教授の本庶佑先生による「がんを免疫力で治す」。本庶先生は、がん免疫のアクセルではなくブレーキとなる分子を発見し、これを阻害することにより抗がん能力が著しく高まることを発見。現在、各種がんに盛ん臨床応用されているヒト型PD-1抗体のニボルマブ「オプジーボ(R)」の開発に関わった第一人者だ。従来、がん免疫ではアクセル的なものの臨床応用がなされてきたが、その効果は期待以下だった。いかにアクセルを踏んでも同時にブレーキを踏んでいたのでは意味がないということだ。初め悪性黒色腫で認可された「オプジーボ(R)」は、泌尿器科領域では昨年秋、切除不能な転移性腎細胞癌にも認可された。治験段階からすぐれた奏効率とともに、治療中止後も奏功が持続する例が一部にみられ、治癒も期待できるという有望なデータが報告されている。小生の科でも今年から10名弱の患者に導入しており、そろそろ初期効果の評価時期に入り、結果がどうでるか注目している。本庶先生の講演では、さらに「オプジーボ(R)」の使用期間に関するまだ一般化されていない考え方や、免疫関連で次々と開発される新薬、その効果を高める分子等についての知見が述べられ、がん治療における免疫療法の洋々たる前途が示された。がん治療医学の進歩、新しい水平線が実感され、まさに encourageされる講演だった。
  その直後に引き続いてなされた講演が、日本赤十字社医療センター化学療法科の國頭英夫先生による「命の値段」。前述の「オプジーボ(R)」がおそろしく高額で、高額医療制度により医療保険に相当の負担を仰がざるを得ないことは御存知の如く。これから新たに上梓される新薬群も、その開発費から同様に超高額になるものが多いだろう。適応を厳しくといっても、他に有効手段がなくなり切羽詰まった患者サイドにしてみれば、藁をもすがる思いで有望な治療薬を望むのは当然。今後も医療費が膨らんでいくことは抑制できないという。一説ではもう限界に達しており、5年以内に制度破綻するという。ただ、誰にも止められない。つまり誰が患者さんに「膨大なコストをかけてまで、あなた、いつまで生きるつもりですか」と言えるのかということだ。「何千万円もかけ、負担を子や孫に押し付けて、我々はいつまで生きるのか?」、医療界では絶対「善」とされて来た「延命」へのアンチテーゼともいうべき講演だった。事の重大さを認識させられ、講演終了後には実に暗澹たる気持ちになった。
  医学進歩の功罪、明と暗。皆さんはどう考える? そしてどうしたらよいのだろう。


※文中の(R)は登録商標マークのマルアールを表しています。
 
 春夏秋冬 <二つの講演> から