最近、小学生の長男がプラモデルに、ハマッていて、先日第1作目の艦船が完成した。初めてだからとタカを括っていたが、糸の様に細くゴマつぶの様に小さな部品が実に正確に組み上げられていてその精緻な出来栄えには正直驚いた。自分自身も相当自信をもったようで、現在第2作目に挑んでいる。 私本人も子供の頃はプラモデルが大好きで数多く作った。一番のお気に入りはF1マシーンの「マクラーレン」だった。大きく美麗な化粧箱、めまいがするくらいの星の数ほどの部品、実車を再現した巧妙な動きなど、買ってもらったときの心の高ぶりは今も忘れない。2,500円だった。しかし、完成時の出来栄えは何とも中途半端で、描いていたイメージには程遠いものだった。原因は当時からわかっていた。「待てない性格」だからである。短気というわけではないが、セメダイン(なぜか秋田県人には「セメンダイン」という人が多い)がまだ生乾きのうちに待てずに次の工程に移ってしまうので、制作途中ではがれたり崩壊してしまったりしてしまうのである。実はいつもこんな調子であった。どうやら長男はこの待てない性格は受け継いでいないらしい。 ただしこの性格、現在の仕事である外科医には向いているのではないか?と実は密かに思っている。日常診療でもそうだが、特に手術は、患者さん一人一人が病状も解剖も千差万別である。のんびり構えて、「どうしよっかな~」などとやっていてはいつまでも終わらないし、それは患者さんへのデメリットに通じる。瞬時瞬時に正確な判断をし、安全確実に終わるのが良い手術である。それには、のんびり屋さんよりもある程度の「短気さ」も必要と考えている。見回すと私のまわりの外科医は「待てない人たち」ばかりである。 現在、私たちが扱う手術の大半はがんの根治手術である。そして、性格から来るわけではないが、がんの患者さんを診ると、まず第一に手術をして治そうというところから発想が始まる。しかし、近年固形がんに対する薬物療法の進歩は著しい。がん腫の種類によっては、切除手術をしなくともごく簡単な内服剤だけで完治に近いところまで持っていけるものもある。内視鏡手術などでしばしば言われる「切らずに治す」というのは言葉のまやかしであるが、実際に「切らずに治るがん」は存在する。いままで「がんの根治は手術によって成される」と信じていた。今でも、外科医のがん手術での使命は完全切除することであるとの考えは変わらない。ただ、待てない性格が改まるわけはないが、がんに対する治療に対する考え方はますます変えていかなければならない。
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