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<春夏秋冬>

発行日2008/08/10
すずき眼科  鈴木 明子
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私はPR犬にしかなれない
 
 会員の皆さんも少なからず医学の限界に戸惑い、力及ばずに挫折を味わった経験がおありなのではないでしょうか。病魔という敵と共に闘い、刀折れ矢尽きた戦友は私の前から少しずつ遠ざかり、何時しか私の記憶の中だけの存在になってしまいました。そんな患者さんのことが気に掛かり、思い出しては、「今どうしているのか。もう今となっては私に出来る事は何もないのか。」と考えていた私の声が届いたのでしょうか?「目の不自由な方に光と希望を願う会」へのお誘いがあったのが二年ほど前のことです。会ではこれまで、網膜芽細胞腫で光を失ったピアニスト梯剛之さんのチャリティーコンサート、大森山ジャズフェスタを主催、共催し、その収益から、この春には白杖訓練を行ないました。私はこの会を通じて様々なことを学びました。幼い頃から四感の方は、四感がとても研ぎ澄まされ、私が考えている程の不自由を感じていないのではないかとさえ思えるのに対して、それまで五感で過ごしてきた人が光を失った場合は自立するのに並々ならぬ努力が必要であること。そして、そういう方に当然必要となってくる歩行訓練や生活訓練、そういった場を提供するシステム・施設が秋田にはないこと。歩行訓練士もおらず、4月に行なった白杖訓練には仙台から訓練士さんに来て頂きました。会ではそういった指導を行なう人材の育成と、視覚障害リハビリテーション訓練を提供するシステム・施設作りを目指して活動を続けているのです。その会で、私は日本盲導犬協会の方とも知り合うことが出来ました。そんな彼女から「募金活動を行なうのだけれどボランティアを・・・」という要請がありましたが急なことで依頼が儘ならず、「それなら私が・・・」ということに。「実は私、動物は苦手なのよ。怖さが先に立っちゃって」「大丈夫、盲導犬は大人しいから」「盲導犬は大丈夫!でもわんにゃんフェスタの会場でやるんでしょ?そこら中にわんにゃんがいるんじゃない?」「大丈夫、檻の中にいる!」そんなやり取りの後、7月13日私は会場へ向かいました。盲導犬は、人間が大好き・労働意欲がある・使用者にとって丁度良いサイズ・見た目が可愛い、ということでラブラドール・レトリバーが用いられます。会場にはソフィーとヴィンス、2匹の盲導犬がいました。2匹共に温厚で子供たちにパタパタ叩かれようが尻尾を引っ張られようが吠えも嫌がりもしません。「流石、よく訓練されている」と感心しながら臆病な私も2匹に楽しく遊んで頂きました。そのうちに、ソフィーは現役の盲導犬だけれどもヴィンスはPR犬であることが分かりました。老犬で引退したのかなとも思いましたがそうではないのです。ヴィンスも盲導犬の訓練を総て終了したまだ若い成犬なのです。「どうして?」との私の質問に友は「所有欲のある犬は盲導犬にはなれないのだ」と教えてくれました。ヴィンスは所有欲が強いのだと。遊んでいるボールを取り上げられたときに「ウーッ」と唸るようでは駄目。食べている餌を他の犬に横取りされた時に「ウーッ」と稔っても駄目。どんな時でもホニャ~ッとしていなくてはいけないらしいのです。盲導犬も大変だ。つらい訓練を頑張ったのにほんの僅かの所有欲でPR犬。我が身を振り返って何故か身に積まされるヴィンスなのでした。私もPR犬にしかなれないなー。
 
 春夏秋冬 <私はPR犬にしかなれない> から