トップ会長挨拶医師会事業計画活動内容医師会報地域包括ケア介護保険について月間行事予定医療を考える集い学校保健関連

<春夏秋冬>

発行日2008/04/10
平野いたみのクリニック  平野 勝介
リストに戻る
宝の持ち腐れ
 
 新築移転した県南の病院の旧病院内に、廃棄処分となる機器類のなかにサーモグラフィ装置にセットされたPC-98があるとの情報を得て、師走の日曜日に向かった。手術室はどの部屋も異様に静かで薄暗く、多くの機材が山の様に詰まっていた。冷や汗の様なものをかいて周辺の部屋まで探しまわり、以前から欲しかったサーモグラフィ装置を見つけた。しかし、PC-98がない。
 昨年(平成19年)11月半ば、原稿依頼と書かれた封書が届いた。承諾か否かの葉書はあったが、原稿送致用速達封筒がすでに同封されていた。
 翌朝、新聞の何でもない記事でそのデータの存在を思い出し、捨てる訳がないと探してみたら5インチフロッピーがなんと100枚以上も出てきた。
 20年近く前、盛んにデータを収集した疾患だが、障害部位や発症経過などでバラツキが多く、発表どころかまとめてもいなかった。これで楽勝と考えたのは、IT初心者の浅はかさである。保存したNEC PC-98は最近使用しないので、妻に邪魔だと言われ続けて何となくその気になり、2年前に粗大ごみで処分していた。外付けアダプターがあると思い(IT初心者なので)、その夜、市内の家電量販店を回ったが絶対にないことが分かった。しかし大学には当時のPCがあり、次の午後が休診日を待って借りに行ったが、フロッピーが動かない。操作ミスと思い(何事も謙虚なので)1時間以上も苦戦して故障との結論に至った。代理店は廃止統合されていて東京まで電話したが、部品の有無や5インチフロッピーの起こし方を聞いても全く埒があかない。
 かなり焦り始めて、翌日から秋田県内の病院やPC関係に片端から電話を掛けてPC-98の有無を問い合わせてみた。
 「ちょっと分からないなあ」「2年前は使っていたけど」「半年前まであったはずだ」(港の洋子か)
 「NASAは今でもそのフロッピーを使っていますよ」(そんな事聞いてないよ)。
 データは後になって重要と気付く事がある。しかし起こせなければそれは宝の持ち腐れである。新世代DVDの規格争いで「HD DVD」が敗れて「ブルーレイ・ディスク(BD)」に一本化されることになった。日本のIT技術の先進性は喜ばしいことだろうが、その陰で私の様な無知な利用者が置き去りにされてしまうことはないのか。
 取りあえずサーモグラフィ装置だけでもお借りする(貰う)ため、暮れも押し迫った日曜日に出かけた。3度は無理を言えないので、これが最後と必死に探した。守衛さんも手伝ってくれたがやはり見つからない。ついに諦めて、守衛さんに感謝を述べて戻ろうとした時、守衛さんは気遣ってくれて、「これはどうですか」と廊下の段ボール箱を次々と指差した。その1つは前回来たときにも気付いていたスキャナーの段ボール箱で、「多分違うと思いますが」と言いつつも、せっかく言ってくれたので一応開けて見たところ、「あれ、これ・・・、スキャナーではない。あ、あった。」PC-98だ。

 
 春夏秋冬 <宝の持ち腐れ> から