「そんな言い方ないだろう」は梶原しげる氏著の新潮新書のタイトルです。この本をつい手にしたのは、日頃、コミュニケーション術の未熟さを嘆く自分ゆえですが、本の帯を飾っていたのが「ことばの生活習慣病患者が急増中!」でした。生活習慣病の管理を担当している私たちですが、「ことばの生活習慣病」とはうまい例えだと妙に感心し、自分も正にその該当者であると痛感しました。梶原氏は、言い間違いや「間違っていないが何だかムカつく」物言いなどで妙に人をいらいらさせる内容を称して使用しています。その一例が、「永久に不滅」であった某野球球団のオーナーが、選手会長に関して発した「たかが選手が!」発言でした。確かにこの一言で私も一気に日本のプロ野球への関心が冷めてしまいました。そういえば、長年の同球団ファンだった狭心症の某患者さんも同じ理由でテレビ観戦を止めたために飲酒量が増え、糖尿病が悪化してしまったことを思い出します。一言の影響は大きいものです。 患者さんや職員、医師の皆様、さらに家族、先輩・友人を始め様々な人々とそれぞれ相手によって物言う立場も異なり、改めて複雑かつ難しいものと思います。その最たるものが、敬語・謙譲語とその対極の「ため口」の使い方でしょうか。私自身、職員接遇教育などできる能力はなく、マニュアル本を買い与え各々読んでもらっている当院ですが、先日、受付から「お会計の方、○○円になります」「△△円からお預かりします」と、コンビニ・ファミレスで有名なマニュアル敬語が耳に入ってきました。若者の接遇対応に広く浸透しているマニュアル敬語ではありますが、買った本の内容も現場にあわせてチェックしなくてはと感じたところでした。 先日のNHKスペシャル「脳梗塞からの“再生”」では、著名な免疫学者・多田富雄先生が脳梗塞で右片麻痺、仮性球麻痺による嚥下障害、重症の構音障害で声を失いながら、「地獄」を乗り越えて左手キーボード入力により著作や能新作に励まれる強烈な姿が映し出されていました。往復書簡「露の身ながら」(集英社)ではこのような状況でも変わらぬ先生の高い知的能力や文章表現力に驚かされます。番組内で言語療法によりある言葉の発声習得に苦心しておられましたが、それは2年に一度、弟子たちと集う会で自ら音頭をとるための「カンパイ」の一言であり、車いすで出席された先生が無事発声された場面ではつい目頭を熱くしてしまいました。 後藤時子先生も先日、「言霊」で言葉の重要性を説いておられました。対して、私自身も自分の「ことばの生活習慣病」を危惧する状態です。各々の事項は軽微であっても危険因子として複数累積するとmetabolic syndromeのごとく重症化し、その合併症として人間関係崩壊に至らぬようにと願っています。
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