梅崎春生の作品に「桜島」という小説がある。戦後文学の名作の一つといわれ、哀愁に 満ちた内容である。 『「桜島?」 妓(おんな)は私の胸に顔を埋めたまま聞いた。「あそこはいい処よ。一年中、果物がなっている。今行けば梨やトマト。枇杷(びわ)はもうおそいかしら」』 先日、鹿児島の知覧に行ったついでに訪れた。 桜島が正面に見えるベランダ付きのホテルに泊まった。天気はくもり、雨模様。旅行日和ではない。 一日三回は姿を変えるという島も、頂上が雲に覆われては期待はずれ。しかし、錦江湾に浮かぶ島の姿はやはり美しい。 頂上が雲に覆われているが、時に全貌を見せてくれる。天気晴朗だったらと残念な気がする。 ある著名な画家は、年二~三回、島を描くため来訪するという。 知覧訪問が主な目的の旅であったが、帰りがけに、桜島を通ってきた。 フェリーに乗って渡る。揺れないという鹿児島市御自慢のものである。十分程で到着。 道路は奇麗に整備されていた。所々に、今が盛りの枇杷(びわ)を売っているお店が立ち並ぶ。
大きな桜島大根。人の頭の二倍程の大きさ。 島は、活火山で時々噴火をする。道路の側に、大小様々な溶岩の群れが荒々しい肌を剥き出しにしている。時々、降ってくるという火山灰も目にした。 溶岩とか火山灰というと、荒涼とした印象をもつが、実際は素朴で、且つ可憐な島であった。 溶岩で作った焼物を売っている店がある。鹿児島の人々は、陽気で愛敬がある。その愛敬につられて茶器一式を購う。 島の中央付近に小規模な展望台がある。錦江湾が一望でき、清々しい気分。 運転手の方も陽気な人で「鹿児島オハラ節」を歌ってくれた。 「花は霧島、タバコは国府、燃えて上がるは、オハラハー桜島」 国府のタバコの生産量は最近、とみに減っているとのこと。その代わり精密機械の工業が盛んになっている由。「京セラ」の社長の出身地の影響であるとは運転手の弁。 帰ってから、映画「ホタル」を観る。 敗戦間際の特攻隊にまつわる心に沁みる作品であった。
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