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<ペンリレー>

発行日2024/03/10
武田胃腸クリニック  武田 正人
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ピノフェチのワインラバー
 
 「Club31」というワイン会でご一緒する「おのば腎泌尿器科クリニック」佐藤先生のたっての御依頼なので断わることもできず、お受けした次第です。干からびてきた脳細胞から絞り出して書くことにしました。
 酔っ払いの戯言として御容赦頂ければ幸いです。
 そのワイン会は20年以上前に今は亡き津谷弁護士に誘われた会でした。丁度年末でボルドーの五大シャトー(マルゴー、ラッフィット、ラツール、ムートン、オーブリオン)が出てくるワインラバー垂涎のラインナップでした。
 「五大シャトー」の名前にそそられて参加。市場にリリースされたばかりのワインでした。常連の皆さんは「美味しい、美味しい」と言って飲まれてワインの出来を語り合っていましたが、私には「渋い、渋い」としか感じられませんでした。
 「いつも安いワインしか飲んでいないから本物の味がわからないのかもしれない」と自分を納得させておりました。
 そんな事が数年続いたある年末。ボルドーと共に双璧をなすブルゴーニュのワインがリストに入っていました。DRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ)社のロマネ・サン・ヴィヴァン(RSV)でした。
 一口飲んだ途端、思わず「何じゃこれは!」と衝撃が走りました。まるでダークスーツで固めた男達の中に現れた若きオードリー・ヘップバーンの様でした。やはりブルゴーニュは女性的と言われるのも頷けます。
 美しいルビー色。素晴らしい香り(アロマ)。シルキーな舌触り。滑らかな喉越し。長い余韻。脳が痺れてしまう様でした。
 一体、今まで飲んできたワインは何だったのでしょうか?
 少し勉強してみるとまず、どうもブドウの品種が違う様でした。ボルドーはカベルネ・ソービニヨンを中心としたブレンドであるのに対し、ブルゴーニュはほとんどがピノ・ノワールという単一品種から醸造されておりました。
 私はこれ以来しっかりとピノ・ノワールの虜になってしまいました。この様な人間は世間では「ピノフェチ」と呼ばれています。
 ピノ・ノワールの最高峰はなんと言っても「ロマネ・コンティ」であります。「一度でいいから口にしてみたいものだ」と多くのブルゴーニュ好きが願っております。
 東京の渋谷の有名ワインバーでは毎年12月末に、この「ロマネ・コンティ」を含むDRC社全ての特級(グランクリュ)を出すワイン会が開かれているとの話を耳にしました。
 これらのグランクリュとは「ロマネ・コンティ」「リッシュブール」「ラターシュ」「エシェゾー」「グラン・エシェゾー」「ロマネ・サン・ヴィヴァン」「コルトン」の赤ワイン7種に唯一の白ワインである「モンラッシェ」を加えた8種類です。
 何と豪華なラインナップでしょうか!通常12月30日の夜に13組が用意されます。一銘柄あたり55mlがサーブされます。13組ということは、お一人でもペアでも参加できるということです。
 このワイン会に参加するためにはこのワインバーのメールマガジンに登録する必要があります。毎年12月上旬頃にこのワイン会の案内メールが届きます。返信の当着順に参加者が決まります。優遇制度を一つだけお教えしましょう。このワインバーの何らかのワイン会に一度でも参加した事がある方には一日早く案内が届きます。
 さて、これらのお宝ワインの味はどうなのか知りたいことでしょう。当然、美味しいです。しかし市場にリリースされて4年経過したワインですので正直に申し上げると「まだ若いです」少なくとも10年は寝かしてから味わいたいものです。
 また、これらの7種類のワイン達に違いがあるのでしょうか?連続して参加した4年目の事だったと思います。調子に乗った私は「今日はブラインドテイスティングしてみます。いくつ当てられるかやってみます!」と担当のソムリエに言い放ったのです。「少なくとも『ロマネ・コンティ』と熟成の遅い『コルトン』は間違うことはないだろう」と踏んでいました。
 結果はどうだったでしょうか?何と一種類も言い当てることができなかったのです。私が落胆しているとソムリエがニヤッと笑い「全部ピノ・ノワールですからねぇ」とつぶやきました。私はこの時思い知らされました。「我々はブランドに妄想を膨らませていた」ことを。
 ヴィンテージワインもそうです。皆さんラベルを取り払って味覚と嗅覚だけに集中してみて下さい。ピークを過ぎたワインがそこにあることを知るでしょう。(当然、真逆のご意見が存在することも承知しております。)
 昨今のフランスワイン(特にブルゴーニュワイン)の高騰には目を覆うばかりです。かつて参加していたこのDRCワイン会も2023年は倍の参加費となっており、もはや飲み物の値段とは言えなくなってしまいました。
 しかし、希望はあります。手垢のついていないチリワインやニュージーランド、南アフリカワインは十分に手が届きます。今後は自分の舌のみを信じてコスパの良いワインを密かに探すピノフェチの旅を元気なうちは続けて行きたいと念願しております。
 次のバトンを大学の同期生で私の下手なゴルフにも時々付き合って下さる「えのきこどもクリニック」の榎正行先生にお願いしました。
 
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