長男、二男が高校を卒業し三男だけが家に残っていた2013年初めの頃、仕事が終わって家に帰るとそれは何の前触れもなく家に居た。近所のペットショップに妻と三男が大好きな犬を見にいって、二人とも一目惚れして買ってきたのはなぜか犬ではなく黄色(ルチノー)のセキセイインコだった。嘴に傷がついていたので、二千数百円が1,000円にディスカウントされていたとのこと。鳥が1,000円で鳥かごや餌などの備品代が8,000円ほどだった。生まれて数ヶ月経っており、人の手を怖がるので店員さんが手乗りにはならないだろうと言っていたらしい。 まさかわが家の最初のペットが鳥になるとは夢にも思っていなかった。自分で鳥を飼ったこともなくまわりに鳥を飼っている人も居なかったので、私の鳥のイメージは身近ではせわしなく動き回る雀や狡猾に逃げ回るカラスであり、また奇妙な首の振り方をして歩きまわり、所構わず糞をまき散らし、たむろする野鳩の集団であり、遠くは大鷲や隼などの猛禽類であった。つまり鳥をペットとして捉えたことはなく、どのように飼えば良いのかもわからなかった。しかし鳥はペットとして猫、犬、魚に続いて第4位という確たる地位を築いており、セキセイインコに関するいわゆる飼育本は山のようにあるので、これを参考にしながら育てていった。 セキセイインコ(背黄青鸚哥)は、オーストラリア原産の小型インコで、オウム目・インコ科・セキセイインコ属に分類される。ペットとして人気が高く、和名語源は最初に国内に来たセキセイインコの背が黄色と青色の配色になっていたことから来ている(Wikipedia)。鳥類の中でオウムと同様に例外的に長命で人懐こく、これがペットとして選ばれる理由の一つであるらしい。 三男がPickと名付け、取りあえず自分より高級な鳥かごの中で過ごす日々だったが家族の献身的な世話もあって2週間ほどでブランコに乗れるようになり、5ヶ月目にはかごの外に出ることができて、半年で肩に乗り、ついに手乗りとなった。自分の名前を寝言で話したりするようになり、かごの出入り口を開けておくと自由に出て家の中を飛び回るようになった。5年経った今、Pickはメスなので残念ながら言葉を話すことはないが、お茶や水を器に注ぐ音の真似が抜群に上手い。朝は自分が起きていても家人が起きてくるまで鳴くことはなく、我々の食事の準備中は洗った野菜の中で遊び、食事の時はテーブルに飛んでくる。かごの出入り口はほぼ開けているので、日中は自由に出入りし殆どかごの外に居る。従ってわが家の中は至る所に彼女の糞が落ちている(緩くないのできれいにつまんで取れる)。寝る時間は正確で、20時前後には自分でかごに戻る。我々が出かけるときは「一寸お出かけしてくるから待っててね」と妻が優しく言いながらかごの上に載せると自らかごに(ちょっとさみしそうに)戻っていく。車が自宅に戻る音で帰宅に気づき鳴き始める。 これらの行動は単なる条件反射だろうと思っていたが、調べてみると鳥の脳は高密度の神経細胞で形成されていることが知られており、一説には全ての生物の脳の大きさが人間と同じであったら鳥がいちばん賢いであろうとも言われている。そしてどのセキセイインコの本を開いても巻頭に「とても賢い、感情豊か、愛情深い、好奇心が旺盛」と書かれている。 更に国内の研究機関でも「セキセイインコは、人言語を模倣するなど人間の言語学習・音声コミュニケーション学習行動の理解への卓越したモデルになる」とされているし、米国の研究では「会話音声に触れた経験に関わりなく、インコは人間と非常に似た方法で音声の合図を利用していた」と報告されている。 飼い始めた当初はこの30gにも満たない生き物がこのように優れた能力を持っているなど想像もしていなかったし、これほどまでに日々の生活に欠かせない愛しい存在になるとは思ってもいなかった。丁度子供達が皆家を出る時期に重なっていたこともあって、夫婦二人でのちょっと物寂しい暮らしの中に大きな潤いをもたらしてくれている。妻と三男の“一目惚れ”には本当に感謝しかない。今は動物を飼っている人が皆言うように「うちの娘です」と言って憚らないし、まさに「コンパニオンアニマル」(人生の伴侶としての動物)である。 セキセイインコの寿命は10年程度らしいので、Pickも人生半ばというところ。お互いの行動を理解し合って、健康に気をつけてこれからも楽しい毎日を過ごしたいと思っている。
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