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<ペンリレー>

発行日2008/07/10
加賀谷こども医院  小松 偉子
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花植え顛末記
 
 2、3年前から癒されたくて、猫の額ほどの土地に花の苗を植え始めた。土地といって砂地で石はごろごろ、家を取り壊した後なので、釘なども混じり、とても庭などといえる場所ではない。しかも土壌改良などをしている余裕もなかったものだから、生協で苗を頼んでは、ただ地面を掘って植えるのみ。環境に合わずに枯れるものはそれまで、という方式。子供に“もっと庭らしくしたら?”とご近所のすばらしい庭の写メールを見せられる始末だった。
 最近、どういうわけか夫が花作りに目覚め、職場でも先頭だって花を植えているらしい。今まで訊かれたこともなかった花の名前や、栽培方法、開花時期など詳細に質問される。いい加減な答えはできないから、自然と花の事典などを見る機会が増えた。
 そんな折、田舎のぼろ家がついに長年の風雪に耐えかねて壊れてしまった。取り壊した跡にいくらかの地面がむき出しで残り、なんとも見栄えが悪い。遠くて畑にすることもできないし、お盆の時にお墓に供える花でも作ったらいいだろう、と夫の発案で休みの日を期して出かけることにした。土壌改良しないといけないんじゃあないの?水はどうするの?第一畑に普通水道なんてないよね、などと不安は尽きない。耕すのに鍬いるよね。肥料もなどと思案をめぐらしていた。いよいよ出かけるという前日、夫が何を思ったのか夕食を作るというので楽しみにしながら仕事から戻ると、実は幼馴染を二人招待しているとの事。私も知っている人なので、お二人の到着を待ち、夫の作った料理とお二人の持参された蕨やサラダ、漬物などを肴に夕食会が始まった。明日、これこれで田舎の土地に花植えに行くんだという話しをすると、かつて市民菜園をやっていた一人は、“技術的なことはアドバイスできないけれど、腰には気をつけたほうがいい。鍬を振り上げる動作はゴルフと同じで腰に最も負荷がかかるんだ。自分も腰にきて寝込んでしまった。”と。もう一人は造園業をやっているとのことで、“いやあ、素人が俄かにやるのは難しいぜ。でも一生懸命やる姿を見せればきっと周囲が気の毒がって助けてくれるよ。それは、拒まず有難く助けてもらうことだね。”と、納得できるアドバイス。宴はそんな談義で盛り上がり、夜半過ぎまで続いた。
 夕べのお酒の残りを頭の隅に感じながら、それでも興奮していたのか早めに目が覚めた。天気は申し分なし。朝食を摂り、先ずは苗木の入手に向かい、ダリア、菊、百合、グラジオラス、カンナ、向日葵など手の掛からなさそうなものを購入した。次に鍬やショベル、鎌も購入。一抹の不安を抱えながらも田舎へと出発した。
 さて、昼少し前いよいよ目指す畑(?)に着いた。取り掛かる前に、ご近所と親戚に挨拶してからと手土産を片手に訪ね歩いた。これで挨拶も済んだし、麦藁帽子をかぶり、日焼け防止の腕カバーをはめ、鍬をもち腰を痛めぬよう少しだけ振りかぶり、振り下ろした。カキーンと音がして、思わず夫の方に目をやった。もう笑うしかなかった。“開拓民みたいだね。”と話しかけてまた笑ってしまった。何度か振り下ろしているうち、いつの間にか親戚の三人が来ていた。“それだばやれねべ。”トラクターを取りに行き、ガガガと瞬く間に何分の一かを耕してしまった。さらに助っ人二人を呼んで、耕した土に畝を作り、手馴れた人の手でそれは瞬く間になされた。自宅に植えようとした小玉スイカも、マルチングをし、さらにビニールで覆い、なんと本物の畑に様変わりしてしまった。夫の友人の言っていたことはまさしくその通りになったのであった。
 親戚の家でお茶をご馳走になり、勧めに従い、黄桜を見に行き温泉に浸かり帰途に着いた。何日か後の筋肉痛を思いつつ。
 後日談がある。花だけであそこをうずめるのは難しいことに気付いた夫は、黄桜を植樹することにした。親戚に頼んだところ、とんとん拍子に事は運び、多分であるが、何日か後にきっと黄桜の苗木が畑を縁取ることになりそうである。お盆の時に訪ねたらどうなっているだろうか。管理を何となく引き受けてくれた親戚夫婦に見守られ、花とスイカが墓前に供えられるのを待っているかもしれない。夏を今から楽しみにしている。
 次は当医院前院長のすずきクリニック鈴木雪子先生にお願いしました。
 
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