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<ペンリレー>

発行日2005/10/10
北嶋内科医院  北嶋陽子
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久保田先生のこと
 
 秋田市の楢山緑地に(県立女子医専学舎跡地)窓を間に前後二人の乙女の像が建っているのをご存じでしょうか。
 諸種の事情のもとに、わずか2年で廃校となった私共の母校に且て学んだ同窓生の、学窓を通り過ぎる姿がそのブロンズ像です。(元教授神保恒春先生寄贈 峰田敏郎氏制作)
 昭和20年6月、夢と希望を胸一杯に医学の道を歩み始めた私共でしたが、廃校により、揃って初志を果たすことかなわず、他の進路を歩んだ友人も多数あったことを今更のように思い出します。
 質素な校舎の中で開校式を迎えた60年前の秋田女子医専。その印象深い先生達の中に解剖学担当の久保田くら先生のお姿がありました。先生は未だお若く、そして美しく、私共学生にとってあこがれの存在でありました。わずか2年の間でしたが、忘れられない恩師久保田先生です。
 解剖学の試験には、しばしば口頭試問の形式を取られ、その場でマチガイを指摘され、たしかな知識を身につけるよう一対一の親切な指導をして下さいました。
 また時折りお住居にお邪魔して先生お得意の食べ物のお話をうかがったり、手づくりのひと品をご馳走になったり、それは楽しいひとときでした。家庭料理をつくる事のきらいでない私には久保田先生のおかげが大いにあったと思います。学問以外の日常の会話が私共には貴重なおくりものでした。ちょっとお茶目に首をすくめて笑う先生のしぐさが、いまだに目に浮かびます。
 秋田を去られた後母校の東京女子医大の教授になられた先生は、秋田からの転校生の中からご自分の学問の後継者を育てられました。その事実は私共同期生にとって、大変嬉しい出来事でした。
 亦60年余の長い年月に、私共は数多くの「幻の同窓会」を催して参りましたが、その何れの会にも特別の事情がない限り、秋田で、仙台で、東京で、先生の懐かしいお姿を拝見する事が出来ました。それが私共には何よりの喜びであり、なぐさめでもありました。
 秋山先生のお知らせの中に、旅立たれる久保田先生のお顔はおだやかで観音様のような寝姿だったと云っておられます。
 90年の長い生涯を悔いなく立派に終えられた先生。今私は追憶の中の久保田先生をこの上なく懐かしく、大切にお偲び申し上げ惜別の悲しみを味わって居ります。
 次回は、心に残る素敵な写真を撮られる友人の池田和子先生にバトンをお渡しします。

 
 ペンリレー <久保田先生のこと> から