*あのう、耳鳴りのエビデンスってのが欲しいんですけど -耳鳴りの?そんなものはうちには置いてないよ *やっぱりそうですか、3軒の耳鼻科周ってきたんですけど、どこにも置いてないらしいんですよ -う一ん、3年前から、エビデンスのない治療をして3ヶ月以内に有効でない場合は処罰されることになったからなあ、最近はどこも治療してないだろうね。 *もう3年も悩まされているんです。夜も眠れなくて頭がおかしくなりそうで、何とかなりませんか。 -じゃ念のためエビデンスセンターに検索かけてみるか、最近ポイントが貯まったから新しいエビデンス使用権もらえるかもしれないからね *ポイントってどうやって貯まるんですか -医療も市場経済っちゅうやつでね、患者さんに丁寧に説明して満足してもらえるとポイントが貯まるんだよ、あっ、あなた健康保険パソコンもってるよね。そこにあとで満足度と効果度を入力してセンターに送ってね。それがうちのポイントになるから。 *はあ、これですね -おう、あなたのは基本仕様で、エビデンスメモリが23個しかないね。あと6つしか残ってないじゃない。耳鳴りなんかで使っていいの *はあ、増設には民間保険に加入しなければいけないんですが、ちょっと今余裕無くて-まあいいや、検索するよ。一番安いのは…、あったあった有効率19%だ。これは無料のエビデンスだからうちでも使えるね *どういうのですか -え一と、何もしないというやつだ、つまり自然治癒だね。 *あの一3年も悩んで 一わかったわかった、次は21%で自然治癒と有意差なしで、28、24、24.3、24.8・・・みんな有意差無しだ。 *もっと有効なのは無いんですか -え一と40%というのがある。これなら今のポイントで使用権もらえるけど *どういうやつですか -薬剤的内耳破壊術というやつだね、聞こえなくなるけど *聞こえなくなるのは困るんですけど -それは残念だ。お一!85%っていうやつがあるぞ、うちでは権利も施設基準も満たしてないけど、選択的側頭葉破壊術というものだ。聴力は保てるらしい。 *え一!どこへ行けばやってもらえるんですか -それは教えられないな、個人情報保護法にひっかかるのでね。なにせ高いエビデンス持っているところはお金があるわけで、狙われやすくなるからね。それに初期診療機会均等法というのがあって、情報誘導できないようになっているんだ。 *じゃ治療している人はどうやって見つけてるんですか -エビデンスセンターにいって守秘契約書を書いてから教えてもらうんだよ。 *なんだ、はじめからそこへ行けば良かった -だめだめ、まずはプライマリドクター、つまりわれわれに相談して、紹介状を持ってからでないといけないんだよ。 *エビデンスセンターって政府がやっているじゃないですか? -市場経済って言ったじゃない。例のレンタル屋さんとセキュリティ屋さんたちの独占企業だよ。独禁法にひっかからないように内科はA社、外科はB社ってぐあいにうまくわかれているけどね。耳鼻科はこのE社だ。紹介してもらうと紹介料と守秘保証金が必要だよ。それからエビデンスの価値によってそこでエビデンスメモリ増設もさせられるからね。 *そんな。メモリ買う余裕もないし、安いところは無いもんですかね -う一ん、あるにはあるけど *それを早く教えて下さいよ -エビデンス開発センターってとこへ行ってみな。ただでやってくれるよ。昔の大学病院だね。いまはエビデンスセンターの地方出先機関みたいなもんだけど。ただしこれからエビデンスを開発するところだから、ま、人体実験だね。動物実験とコンピュータシュミレーションで安全確認されてるから大丈夫だと思うけどね。最先端治療を受けられるよ。 *耳鳴り我慢しようかな、もう一度うちに帰って考えてみます、別の耳鼻科に相談した方が良さそうだし -えっ何、ドクターショッピングはよくないな。ま、でもよく考えてみて下さい。じゃ相談料は保険でもらっとくね、検索料は自費扱いだよ。混合診療解禁されてるからね。ちゃんと説明したんだから満足度の入力忘れないでね。なんなら僕が入力してあげようか? *結構です -あそう、じゃお大事に
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