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<ペンリレー>

発行日2004/12/10
熊谷内科医院  熊谷 肇
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ラジコン飛行機入門
 
 真っ青な大空を自由に飛び回るラジコン飛行機は、見ているだけでも爽快なものだ。ここ数年、私はその魅力に取り付かれている。所属するクラブの飛行場に足を運べるのが月1回程度なため、腕はさっぱり上達しないが、それでも思い通りに飛ばすことができた日の晩には、いつもの酒がひときわうまく感じられる。その楽しさを紹介しようと思う。
 おおまかに分けて、ラジコン飛行機は練習機としてのトレーナー、曲技を目的としたスタント機、それに実機の模型としてのスケール機に分類される。トレーナーを卒業すると、たいていはスタント機で修行を積むことになる。スケール機は、特に第2次大戦時の戦闘機など、たいへん魅力的であるが、実機はあの大きさがあって、初めて安定して飛べるものであり、そのまま模型として縮小すると、飛ばしにくいことこの上ない。また、戦闘機はそもそも発見されにくいように塗られているため、上空で視認性が悪く、外から見て操縦するラジコンには向いていない。動力は、エンジンである。ラジコン用の、2サイクル、4サイクル、スーパーチャージャー、電子制御燃料噴射もある。ロータリーエンジンや、スケール機用に、実機同様の星型エンジンもあり、さらに近年、模型用ジェットエンジンが出現した。
 私を含め、実際にはほとんどが軽量で扱いやすく大出力が得られる、排気量10~2000のスーパーチャージャー付き4サイクル単気筒を使っている。
 機体をコントロールする無線システムは、プロポーショナル方式と呼ばれ、デジタル比例制御を用いている。送信機のスティックの動作量に応じて、時間差なく受信機に接続されたサーボモーターが舵面を動かすしくみである。最近では送信機にコンピュータが組み込まれ、きわめて多機能になっている。
 陸上を走る自動車と違い、飛行機は空中で3次元的な動きが要求される。主翼端に付いた補助翼で、胴体を中心として主翼を振る方向に機体を回転させるロール軸、水平尾翼の後端にある昇降舵で機首を上下させるピッチ軸、垂直尾翼の方向舵で機首を左右に振るヨー軸を合わせた3軸と、スロットルによるエンジンコントロールを駆便して操縦する。補助翼はエルロンと呼ばれ、右が上がると左が下がり、機体を左右に傾ける。昇降舵はエレベータと言い、アップで機首が上を向き、ダウンで機首下げになる。方向舵はラダー、右に切ると、機首も右を向く。余談だが、エルロンの補助翼と言う日本語訳はおかしいと思う。むしろ実機のフラップのような、揚力増加装置こそ補助翼ではないだろうか。送信機には、スティックが2本生えており、右スティックの上下がスロットル、左右がエルロン、左スティックの上下がエレベータ、左右がラダーとなっている。これを、送信機を持った両手の親指で操作する。エレベータはスティックを下に引くとアップ、上に押すとダウンに動く。これを間違えるとたいへんだ。
 飛行場に行ける日の朝は、目覚ましなどなくても起きられる。ゴルフの方も同様だろう。今日は、友人の初飛行を予定している。彼はまったくの入門者で、飛行場デビューも兼ねている。機体の組み立てやメカの積み込みは、私が手伝った。整備は万全のはずだ。
 クラブの飛行場は、河川敷にあり、模型飛行機練習場として、市から許可をもらっている。迎えに来た友人と飛行場に到着すると、すでにクラブの仲間が何人も来ていた。彼を紹介し、機体の準備にかかる。
 友人の機体は、胴体の上部に主翼が付いた、高翼のトレーナーだ。全長約1.3m、全幅約1.6mと、練習機にしては大きいが、飛行機は大きいほど安定する。
 燃料を入れ、機体のバッテリーのチェック、コントロール系のチェックを行う。エルロン左右、エレベータ上下、ラダー、スロットル、すべてOKだ。続いてエンジンスタート、その昔、Uコンなどの模型用エンジンは手で始動していた。プロペラに指を叩かれ、痛い思いをした人も多いと思う。現在は電動スターターのゴムで作られた先端を、プロペラのスピンナーに押し付けて始動する。
 ラジコン飛行機は、初心者ひとりでは絶対に飛ばない。経験者による指導が必須である。ビギナーの飛行練習では、スティックの動かし方を教えるために、これまで教官役が生徒の後ろにまわり、体を密着させて背後から手を伸ばし、生徒が持つ送信機のスティックに指を重ねていた。男同士、周りから見ても、気分が良いとは言い難い関係である。
 今では、トレーナーシステムと言う、2台の送信機をコードで接続し、先生側からスイッチを切り替えたときのみ、生徒が操縦できるという優れた機能がある。今回は、もちろんこれを用意した。
 エンジンがかかった機体を、手の空いたクラブ員が、滑走路風下側へ運んでくれる。初飛行が目前にせまり、期待に踊る友人と並んで滑走路脇に立つ。離陸は私が担当する。スロットルをふかすと、機体がゆっくり動き出す。ラダーで滑走路のセンターを維持しながら、速度が上がるのを待つ。少し長めに走らせてエレベータを軽く引くと、機体は安定した姿勢で離陸した。しばらく直進のまま上昇させて緩く左へ旋回、高度を上げながら飛行場の周囲を回るコースに入れる。
 十分に高度を取ったところで、いよいよスイッチを切り替えて友人に操縦を変わる。実機ならば「ユーハブコントロール!」「アイハブコントロール!」とコールするところだが、ラジコンで、そんな気恥ずかしいことはしない。「いいよ!」それだけである。体を密着させていなくても、友人の緊張は伝わってくる。心拍数が200近いのではないだろうか。機体は、手放しでも水平直進できるように調整してある。「そのまままっすぐ、はい、ゆっくりエルロン左、エレベータじわっとアップ」、ラジコン機の旋回は、エルロンで機体を傾け、傾いたことで揚力が減少し、降下しようとする機体をエレベータで支える。初めて操縦し、飛行機以上に舞い上がっている友人は、「ゆっくり」も「じわっと」もできず、いきなりがばっと舵をきった。当然、飛行機は背面状態になり、きりもみになって落ちていく。すかさず操縦を私に切り替え、機体の姿勢を立て直してゆっくり旋回させる。このあたり、トレーナーシステムの独壇場である。以前は、生徒の緊張でがちがちにこわばった指に対抗して、リカバーするのがたいへんだった。隣から上ずった声で、「最初は失敗したけど、あとは割ときれいに旋回できたなあ」、「あのう、それ、オレが操縦してるんだけど…」。
 15分間ほど操縦練習を続け、そろそろ燃料が心配になってきたので、着陸させることにする。エンジン最スロー、滑走路の向こう側から高度を落として行き、最終旋回で滑走路に正対させる。トレーナーなので、かなり減速しても失速の心配がないのが安心だ。空気抵抗が多い形をした機体のためか、思ったより降下が早い。このままでは滑走路まで届かないので、わずかにスロットルを足して速すぎる降下を緩める。
 左右のふらつきをエルロンで抑えながら、さらに高度を落としていく。接地寸前、エレベータを強めに引いて機首を上げる。フレアーと呼ばれる操作だ。機首が上がった機体は、主翼下の主脚からきれいにタッチダウンした。減速を待って、タキシングさせて手元に戻し、エンジン停止。
 隣を見ると、友人はこれまで見たことのないような笑顔だった。きっと彼は、今晩うまい酒を飲むことだろう。
 次回は、私のUCGの師匠であり、昨年開業された鬼平聡先生にお願いしました。


 
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