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<ペンリレー>

発行日2003/10/10
やばせ内科クリニック  俵谷博信
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蟻ん子の話
 
 ペンリレーで阿部豊彦先生から依頼を受けました。
 開業してやっと1年半が過ぎて、最近ようやく気持ちも落ち着いてきた感じがします。開業医になったらもう少し自由な時間があるかな、なんて勤務医時代には漠然と考えていましたが、実際は開業医は自分でいろいろとする事が多く、自分が考えていた開業医像とは大違い!でしたが、夜は好きなプロ野球をみれる時間がとれるのがせめてもの救い??と思う今日この頃です。
 さて、以前川口幹夫さん(前NHK会長)が資生堂の福原義春さんから聞いた話として、数年前にある新聞のコラムに書いた話があります。ご紹介します。
 われわれが道を歩いているときよく見かける光景だが、多くの蟻がたくさんの獲物を巣に運んでいることがある。何の気もなくみていると、どの蟻もどの蟻も、まことに忙しげに立ち働いている。遊んでいる蟻など一匹もないようにみえる。ところが、よくよく観察すると、忙しげに働いているような蟻たちにも、何もしていないのが必ずいるのだそうだ。その割合は2割だという。さも忙しげにあっちこっち動いているが、2割の蟻はただ動いているだけ、本当の仕事は残りの8割がやっているのだそうな。
 面白いのはそれからである。
 実験的に、この働いていない2割の蟻だけを分離して別の仕事をさせる。すると、また忙しげに働いているように見えるが本当は仕事をしていない蟻が2割出てくるという。では残りの働いていた8割の蟻を集めて、何か別の仕事をさせてみる。驚いたことに、またまた、その2割は忙しげに動きまわるが実際に仕事はしない、という。「人間の社会もそうなんでしょう」と、福原さんは川口さんに言ったという。川口さんはこの話を聞いて、アッと目を洗われた。なるほど、自分のまわりを見渡してみると、組織の全員が皆同様に効率的に仕事をしていることはない。たいてい熱心な8割の人が熱心に働いて、残りの2割は本を読んだり、ブラブラしたり、喫茶店にいったりして、実際は仕事をしていないケースが多い。だが、そのブラブラ組も、ある仕事にかかると急に熱心に働き始める。しかし、またその時には、そのうちの2割がブラブラし始めて遊んでしまう。
 ひょっとすると、蟻の世界でも人間の世界でも、同じような規則が働いているのかもしれない。それは大自然の摂理といっていいのかもしれない。この話を聞いたとき、川口さんはこう考えたそうだ。「そうだ!もし、それが自然の摂理なら無理に逆らうことはない。10割働かせることが無理ならば、8割の人に10割分の仕事をしてもらおう。もう一つ、2割の働かない部分を工夫して働く8割に変えよう」と。
 昭和60年のセントラル・リーグペナントレースで、阪神タイガースが優勝した。21年ぶりの優勝と騒がれ、興奮したファンが道頓堀川に飛び込んだりした。あのときの阪神は強かった。巨砲ランディ・バースを中心として、真弓も岡田も頑張った。阪神ファンの川口さんは大喜びしたという。その年吉田監督は自らは前面に出ずに、選手の長所を引き出して、選手に思うようにのびのびとプレーさせた。
 しかし、優勝監督吉田は、テレビなどで「来シーズンも全員一致してリーグ優勝を勝ち取ります」と誓った。
 が、「違う違う!」と川口さんは叫んだ「全員一致しちゃいけないんだよ。みなバラバラで、ひとりひとりを勝手に爆発させるんだよ」と。どうやら、心配は的中した。以上、「蟻ん子の話」でした。
 あれから、18年の長い月日が過ぎました。今年の阪神タイガースは圧倒的に強く、星野監督はひとりひとりを爆発させ、調子のよいものを優先的に使い、新旧の選手をうまく競争させ優勝しました。しかし、もしも来年阪神が連覇する条件として、優勝監督星野が「来シーズンも優勝目指して、全員一致して頑張ります」というならば、おそらく阪神の連覇はないだろう、と私は秋の夜長にプロ野球を見ながらこの「蟻ん子の話」を思い出していました。
 
 ペンリレー <蟻ん子の話> から